中学生のお子さんが「学校に行きたくない」と言ってきた。理由を尋ねると「頭痛がする」とか「お腹が痛い」と身体症状を訴えることがあります。これが事実であれば回復すれば学校に行きます。不登校の場合も頭痛や腹痛は実際に起きています。ただ、学校を休むことが決まるとその不調は回復することが多いです。
学校に行きたくない本当の理由はなかなか親には言いません。というより、親に言えるくらい明確な理由であれば、対応できます。多くの場合は自分で言葉にできない、なんだかわからない理由から来ています。
だからこそ、不登校をしています。自分でもわからない。でもなんか、学校に行くのは今の自分にとっては違うという思いが、彼ら彼女らの頭の中にあります。3つのポイントで見ていきましょう。
1不登校の理由はあるけど決定的な理由が分からない
2学校に行く意味を考えすぎている
3問いが深すぎて抜け出せなくなっている
1不登校の理由はあるけど決定的な理由が分からない。
不登校の理由は実は本人も良く分かっていない。
親としては、「勉強についていけないのかな?」 「クラスの雰囲気になじめないのかな?」 「実はいじめられているのかもしれない・・・」などなど、いろいろと不安な要素が思いつくが、いまいちどれもあてはまらない。
本人に問い詰めても、はっきりした答えは返ってこない。ただそこにあるのは「なんとなく学校に行きたくない気持ち」そんなことを話しても分かってもらえないから、話をしない。
理由が明確にあれば言葉にすることができる。対処の仕方もある。しかし、理由が不明確なほうが多い。少なくとも私が接してきたケースは理由は分からない。分からないけど、気が付いたら前を向いて、次の進路を見出していく。
むしろ、理由を具体的に言葉にしているときの方が表面的で危うい。
「いやな奴がいる」「○○の授業の先生がこわい」「クラスに仲の良い人がいない」
いじめが明確にある場合は別として。これらの理由は不登校の理由の核心ではないことが多い。かりにこれらの問題を処理しても、学校には行かない。次なる課題を言ってくるだけである。
これは不登校の理由を取り繕って、しばしの休息を得る。その間に自分で何とかしようという思いが子どもの中にはあるからである。
2学校に行く意味を考えすぎている
「なんで学校に行かないの?」
と問いかけても
「なんか分からないけど行きたくない」
というモヤっとした理由が返ってきても、学校を休ませるに十分な理由とは認めることが難しい。
不登校のお子さんを持つ母親のカウンセリングで受ける相談で多いのが「うちの息子(娘)はなんで学校行かなくなったんでしょう?」というもの。そこが分かれば、「それなら仕方ない」と思えるかもしれないし、親としても子ども不登校を受け入れられる。しかし、実際は行きたくない理由は不明確なままです。
そこを追及しても、子どもは苦しくなるばかりで、不登校の解決には向かわない。表面的な理由を取り繕っても、それとは別に本当の理由がある場合もこれと同じだ。
自分でも分からないけど、学校には行きたくない。理由が言葉にできない理由の一つに自分のことを変な奴だと思っているというのが挙げられる。
不登校している中学生が話してくれたのは、意味を問うているということ。
学校に行く意味勉強する意味生きる意味生まれてきた意味
答えの出ない哲学的な問いが頭の中でグルグル回っている。そんな中で、
幸せって何だろう?豊かになるってどういうことだろう?勉強して幸せになれるのか?自分が生きていることで誰かの役に立てるのだろうか?自分って何?個性って何?私にそんなものあるの?
さらに悩みが深まり、一人の頭の中で哲学対話がグルグルと回っているのだ。
思春期の若者にとって答えの出ない問いを考え続けるのはとても苦しいことだ。大人でもしんどい。意味を問うには中学生の思考力や知識ではあまりにも考える要素がすくない。だからその問いに飲み込まれてしまいグルグルと同じところをループする。
そしてこんなことを考えている自分は変だと思っている。だって、学校に行っているクラスメイトたちは、そんなこと考えずに、毎日学校に行けている。ある意味うらやましいけど、なんで疑問を持たないんだろうと不思議にさえ思ってしまう。
言われたことだけをやっていく学校に毎日通って楽しいのだろうかと思う。一方で大人はこれらの答えをみんな持っていて立派だと思ってもいる。自分は変だ、他の子とは違う。でも、そう思われたくないから、とりあえずの理由を繕って休む。
学校に行かない本当の理由はお子さんの内面世界で答えの出ない問いを考え続けているからこそなのです。
3問いが深すぎて抜け出せなくなっている
不登校の理由が明確でない場合は、まさに頭の中の哲学対話から抜け出せない状態だ。ここから抜け出すには、この頭の中で起きている哲学対話をすることは良いことなのだと肯定することが第一にあげられる。
心の成長としても、意味を問うことは健全だ。自立のプロセスでは必要なことなのです。ただその考えを深めすぎて苦しんでいる。
そこに寄り添っていく大人が必要となる。「お母さんも昔、自分がなんで生まれてきたんだろうかとか考えていた」とか「自分って何だろうかなんて、未だに分かっていない」という哲学対話に乗っかっていく必要がある。こちらから話しかける必要ななく、子どもさんがぽろっと「学校行く意味あるのかな?」など意味深な問いを投げてきたときがチャンスととらえて話をする。
ただ、これを一緒に住んでいる親がやるのはリスクもたかい。中学生は大人を疑り深く、繊細な時期だからだ。不登校するくらい感受性が豊かなお子さんであれば「はは~ん、さてはお母さんどっかで誰かに入れ知恵されたな」と感づかれてしまう。
そして、「休んでいいといいながら、結局学校に行かせようとしているんだな」と。当事者同士で、このような疑念が生まれてしまうと、返って関係がぎくしゃくしてコミュニケーションに距離ができてしまう。
4 意味を問う哲学的なグルグル思考から子どもが脱するために
そこで、第三者であるカウンセラーの出番である。
VCAのカウンセリングの考え方はこちらのコラムへ>>>>
不登校の生徒さんが頭の中で考えている哲学対話の原因は自己否定です。
人と比べて自分を変だとか自分はおかしい、狂っているという思いがあるから、自分自身が意味を問うていることを認めたくないし、人にも話せない。誰でも、意味は問うているし、問わずに生きているとしたら、それこそ心配なことである。その時期が早すぎる、または問いが深すぎるからこそ、精神的に疲れて学校に行くということすらできない状況になる。
哲学対話から抜け出すための着地点は「私は私でいいんだ」という自己肯定の視点を持つこと。この肯定を親でも学校の先生でもない大人からもらうことは、本人の自分に対する責めや、自分はおかしいと思っている認知を変えることができる。そして、これこそが、言葉になかなかできないけど、不登校する中学生たちが求めているもんである。ここが満たされると、不登校は解決に向かっていきます。
最後まで記事をお読みくださりありがとうございました。最後まで読んでくださった方に下記から無料の相談を受け付けております。
不登校のお子さんをお持ちの保護者様向けセミナー募集中
セミナーの情報はこちらから
不登校の解決に向けたメルマガを毎週火曜日に配信しております。下記のボタンからご登録ください。
不登校の解決に向けて行動する
1週間で不登校に対する考え方が変わり、お子さんとの関わり方が改善します
不登校やキャリア教育に関するコラム
空気が読めない子 ― ASD(自閉スペクトラム)の理解
感じ方がちがう子 ― ASD(自閉スペクトラム症)の世界を知る
(シリーズ:子どもの「しんどさ」を生物心理社会モデルで理解する 第6回)
感覚過敏/コミュニケーションのズレ
「空気が読めない」と言われる子がいます。集団の中で浮いてしまったり、場の雰囲気が変わっても気づかない。でもその背景には、「感じ方がちがう」世界の存在があります。
ASD(自閉スペクトラム症)は、理解力や努力の問題ではなく、情報の受け取り方・感じ方・構造のとらえ方が異なる発達特性。今回は、感覚のちがいと認知のスタイル、そして支援の考え方を、生物心理社会モデルを軸に整理していきます。
🔗 参考:シリーズ第1回「子どもの“しんどさ”をどう理解するか」https://visionary-career-academy.com/archives/4178
ASDとは何か ― 世界の感じ方が違う子どもたち
ASDは Autism Spectrum Disorder の略で、日本語では自閉スペクトラム症と呼ばれます。「スペクトラム(spectrum)」とは、光のように連続した幅のある性質という意味。その名の通り、ASDには重い・軽いといった線引きではなく、**社会性・コミュニケーション・感覚処理などの特性が人によって異なる“グラデーション”**があります。
ASDの子どもたちは、他者の気持ちや意図、文脈を読み取る脳の働き方が独特です。それは「理解力の欠如」ではなく、「認知スタイルのちがい」。世界を構造的・規則的にとらえる一方で、人の心やあいまいな社会ルールを把握することが難しいのです。
感覚過敏の世界 ― 五感のチューニングが異なる
ASDの子どもたちは、私たちが当たり前に受け取っている感覚情報を、まったく違う強さで感じています。
聴覚過敏:教室のざわめき、蛍光灯の「ジーッ」という音、鉛筆のカリカリ音などが、痛いほど響く。
視覚過敏:蛍光灯の光や人の動きが刺激になり、目をそらす。
触覚過敏:洋服のタグや靴下のゴム、人との接触が苦痛に感じられる。
嗅覚・味覚のこだわり:におい・食感・温度への過敏さから偏食が起こることも。
こうした過敏さは「わがまま」ではなく、脳が感覚刺激をうまくフィルタリングできないために起こります。外界の情報が“全開のボリューム”で流れ込んでくるため、本人にとって世界はしばしば「うるさい」「まぶしい」「痛い」場所なのです。
💡 支援のヒント「静かな場所で話す」「光をやわらげる」「触れずに声で伝える」――環境を一段階“静かにする”だけでも、本人の安心感は大きく変わります。
認知特性とWISC-Ⅴで見えるASDの特徴
発達検査(WISC-Ⅴ:Wechsler Intelligence Scale for Children – Fifth Edition)では、ASDの子どもたちの“感じ方のちがい”が、認知プロファイルとして明確に表れます。
指標
内容
ASDで見られやすい傾向
言語理解(VCI)
言葉の意味理解・常識・表現力
語彙は豊富でも、比喩・冗談・曖昧な表現の理解が苦手
視覚的推論(VSI)
図形・パターンの処理
強み。構造や規則を見抜く力が高い
ワーキングメモリ(WMI)
聴覚的短期記憶・思考保持
聴覚過敏などで集中が途切れやすい
処理速度(PSI)
単純作業のスピード
感覚刺激への敏感さ・慎重さから低く出やすい
流動的推論(FRI)
新しい課題への柔軟対応
パターンの理解は得意だが、曖昧な課題は苦手
ASDの子は、構造化された課題に強く、曖昧な状況に弱いという特徴があります。この特性が、学校生活や人間関係で「空気が読めない」「急な変化に弱い」と見られる背景にあります。
🔍 ADHDとの比較ADHDでは「注意の持続」や「衝動の制御」の難しさが中心で、WISCではワーキングメモリや処理速度が低めに出やすい。ASDでは「意味づけ・構造化」の弱さが中心という違いがあります。
生物・心理・社会モデルでみるASD
生物的側面
脳の情報処理ネットワーク(前頭葉―側頭葉―小脳連関など)に特性があり、光・音・触覚への感覚過敏・鈍麻も見られます。こうした感覚処理の違いが、日常の不安や混乱のもとになることがあります。
心理的側面
ASDの発達は、「認知発達(考える力)」と「関係発達(他者とつながる力)」が非対称に進みます。物事のルールや法則を理解する力は高いのに、人との関係づくり(社会的参照・共同注意・模倣)には時間がかかるのです。
社会的側面
ASDの子は、社会の“暗黙の了解”や“空気”といった非言語的な文脈を読み取るのが苦手です。社会の側が「わかりやすい構造」を示してあげることが、適応の第一歩になります。
幼児期に現れる兆し ― 社会的参照の困難
ASDの特徴は、幼児期から現れます。赤ちゃんは通常、親の表情や声を“参照”して行動を決めます(社会的参照)。しかしASDの子は、その参照がうまく働きません。
親の表情を見ない
名前を呼んでも反応が鈍い
一人遊びが多い
こうした様子が、3歳児健診などで指摘されることもあります。「関係発達の遅れ」が、後のコミュニケーションの土台に影響していきます。
構造を愛する ― ルーティンとこだわりの世界
ASDの子どもたちは、世界を“変化”ではなく“規則”で理解します。朝の支度の順番、登校ルート、食事の配置――その子なりの“ルーティン”があり、崩れると大きなストレスになります。
💡 ルーティンは安心の構造ASDの子にとって、こだわりや決まりごとは安心の拠り所。「なくす」ではなく、「理解し、活かす」視点が大切です。
また、規則性への敏感さがあるため、鉄道・時刻表・カレンダー・数字・天気など、明確なパターンを持つものを好む傾向があります。これは「構造を通して世界を理解したい」という自然な表れです。
男性に多い理由とカモフラージュASD
ASDは、男性が女性の約4倍といわれます。生物学的には胎児期のテストステロン量が社会的認知の発達に影響しているという説があり、社会的には女子が模倣・観察によって特性を隠しやすいことも関係しています。
「カモフラージュASD」と呼ばれるタイプは、周囲に合わせようとしすぎて思春期以降にうつや不安症を併発することもあります。
ADHDとの違い ― 「調整」と「構造」
観点
ADHD
ASD
主な困難
注意・感情の調整
状況の構造理解
困りごとの原因
「わかっていても抑えられない」
「何が起きているのかわからない」
支援の方向性
刺激を減らす
環境を明確にし見通しを与える
ADHDでは環境の刺激を調整し、ASDでは環境の構造を明示することが支援の鍵になります。
支援のキーワード ― 「見通し」と「安心」
ASD支援の本質は、「次に何が起こるか」がわかること。予測可能な環境が、最大の安心を生みます。
スケジュールを見える化する
状況の変化を事前に予告する
ルールや手順を言語化・明文化する
🧩 柔軟性は“学ぶ”もの安心できる構造の中で、少しずつ変化に慣れていく――それがASD支援の第一歩です。
家庭でできるASD支援のポイント
説明は具体的に、順序立てて 「ちゃんとして」ではなく、「まず〇〇して、次に〇〇してね」と段階を示す。
感情ではなく構造で伝える 「どうしてそんなことするの!」ではなく、「それをすると〇〇になるよ」と結果で伝える。
変化を予告する 「明日は時間割が変わるよ」「お客さんが来るよ」と事前に知らせて安心をつくる。
まとめ ― 「空気を翻訳する社会」へ
ASDの子どもたちは、「空気を読まない」のではなく、**“空気があいまいすぎて読み取れない”**だけ。
社会の側が「空気をわかりやすく伝える」工夫をすれば、彼らは自分の力を安心して発揮できます。
🌱 ASD支援とは、「空気を読む力」を求めるのではなく、「空気を翻訳する力」を社会全体で育てること。
参考資料・引用
American Psychiatric Association (2022).……