不登校の対応がどうして難しいのか?
不登校対応の難しさの理由
お子さんが登校をしぶるようになってから、ご相談をされる親御さんが「何をしたらよいですか?」と尋ねられます。
目の前で苦しんでいるわが子を見て何かしてあげたいというのが本音だと思います。しかしながら、不登校対応はなかなか難しいのが現状です。その一つが「個別性の高さ」です。
書籍やネットの記事にある情報から対応策を得ても、なかなかうまくいきません。場合によってはそれが逆効果になることさえあります。
あるお子さんにはうまくいく方法が別のお子さんでは全く通用しないということや、同じお子さんでも中学1年の時にはこれでうまくいっていたけど2年生になると通じなくなった、なんてことがあります。
個別性が高いからこそ、しっかりと看取る必要がある
不登校になるとカウンセラーをすすめられる理由が、今お子さんが置かれている状況をしっかりと看取る必要があるからです。
カウンセラーは話を聴いているだけだと思われがちですが、表情や来ている服、話し方や動作などあらゆるものを観察しています。
言葉以外の情報からも、お子さんの状況を看取ります。または、言葉では「学校は嫌い」と言いながらも、学校のことばかり話す人や、友達の話を良くする人などは、言葉で言っていることと、心の底にある気持ちが矛盾していることもあります。(これは本人も気づいていないこともあります)
そういった矛盾点なんかからも情報を得て、見立てていきます。この見立ての精度が上がれば上がるほど、対応策が効いてきます。良い対応をするためにはある程度の時間と、面接する回数が必要になります。
親御さんの見立てと、カウンセラーの見立て、それ以外の情報などを情報を共有していきながら、徐々に本人が言葉にできない内面の苦しさや、これからどうしていきたいか、ということを考えていきます。
複数の目でみるからわかることがふえる
ただし、どれだけ凄腕のカウンセラーでも、お子さんと面接する機会も時間も限られています。親御さんが普段みている情報もないと、よい見立てはできません。
親だけでもカウンセラーだけでも偏った見方になりますが、複数の立場の違う人が、見ることで見えてくるものが必ずあります。
そして見る人によって「違う」意見が出ることが大事です。オープンダイアローグを日本で推進されている精神科医の斎藤環先生は「専門家でも意見が異なるということをクライエント(患者さん)に見せることが大事だ」とおっしゃられました。
学校での様子と、家庭での様子が同じということはありません。家庭においても、母親と接するとき、父親と接するとき、兄弟姉妹と接するときにお子さんの態度は違います。
複数の目があることで本人の中にある「多様さ」を互いに知り合うことも、お子さんの理解をする上で、そして対応策を考えるうえで重要な要素となります。
個別性が高くてもこれだけは守ってほしいこと
大事なことは、どれだけ周りの大人が不登校で苦しんでいるお子さんのことが分かったとして、先回りして、結論をだしたり、今後の方針を決めたりしないことです。情報提供までは良いですが、選択、決定についてはあくまで本人にゆだねることです。
これまで、いろいろなケースのカウンセリングをしてまいりましたが、この1点についてはブレたことがありません。逆に言うと、どういう状況でも本人に選択・決定をゆだねていく、というこさえ守っていけば、状況が改善していくということでもあります。
お子さんの状況をみてもどかしい気持ちになることもあると思いますが、カウンセラーの多くが「見守ってください」とお願いするのは、本人が決めるまで待つ、という姿勢が、不登校から抜け出していくうえで欠かせない要素だからなのです。
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不登校やキャリア教育に関するコラム
空気が読めない子 ― ASD(自閉スペクトラム)の理解
感じ方がちがう子 ― ASD(自閉スペクトラム症)の世界を知る
(シリーズ:子どもの「しんどさ」を生物心理社会モデルで理解する 第6回)
感覚過敏/コミュニケーションのズレ
「空気が読めない」と言われる子がいます。集団の中で浮いてしまったり、場の雰囲気が変わっても気づかない。でもその背景には、「感じ方がちがう」世界の存在があります。
ASD(自閉スペクトラム症)は、理解力や努力の問題ではなく、情報の受け取り方・感じ方・構造のとらえ方が異なる発達特性。今回は、感覚のちがいと認知のスタイル、そして支援の考え方を、生物心理社会モデルを軸に整理していきます。
🔗 参考:シリーズ第1回「子どもの“しんどさ”をどう理解するか」https://visionary-career-academy.com/archives/4178
ASDとは何か ― 世界の感じ方が違う子どもたち
ASDは Autism Spectrum Disorder の略で、日本語では自閉スペクトラム症と呼ばれます。「スペクトラム(spectrum)」とは、光のように連続した幅のある性質という意味。その名の通り、ASDには重い・軽いといった線引きではなく、**社会性・コミュニケーション・感覚処理などの特性が人によって異なる“グラデーション”**があります。
ASDの子どもたちは、他者の気持ちや意図、文脈を読み取る脳の働き方が独特です。それは「理解力の欠如」ではなく、「認知スタイルのちがい」。世界を構造的・規則的にとらえる一方で、人の心やあいまいな社会ルールを把握することが難しいのです。
感覚過敏の世界 ― 五感のチューニングが異なる
ASDの子どもたちは、私たちが当たり前に受け取っている感覚情報を、まったく違う強さで感じています。
聴覚過敏:教室のざわめき、蛍光灯の「ジーッ」という音、鉛筆のカリカリ音などが、痛いほど響く。
視覚過敏:蛍光灯の光や人の動きが刺激になり、目をそらす。
触覚過敏:洋服のタグや靴下のゴム、人との接触が苦痛に感じられる。
嗅覚・味覚のこだわり:におい・食感・温度への過敏さから偏食が起こることも。
こうした過敏さは「わがまま」ではなく、脳が感覚刺激をうまくフィルタリングできないために起こります。外界の情報が“全開のボリューム”で流れ込んでくるため、本人にとって世界はしばしば「うるさい」「まぶしい」「痛い」場所なのです。
💡 支援のヒント「静かな場所で話す」「光をやわらげる」「触れずに声で伝える」――環境を一段階“静かにする”だけでも、本人の安心感は大きく変わります。
認知特性とWISC-Ⅴで見えるASDの特徴
発達検査(WISC-Ⅴ:Wechsler Intelligence Scale for Children – Fifth Edition)では、ASDの子どもたちの“感じ方のちがい”が、認知プロファイルとして明確に表れます。
指標
内容
ASDで見られやすい傾向
言語理解(VCI)
言葉の意味理解・常識・表現力
語彙は豊富でも、比喩・冗談・曖昧な表現の理解が苦手
視覚的推論(VSI)
図形・パターンの処理
強み。構造や規則を見抜く力が高い
ワーキングメモリ(WMI)
聴覚的短期記憶・思考保持
聴覚過敏などで集中が途切れやすい
処理速度(PSI)
単純作業のスピード
感覚刺激への敏感さ・慎重さから低く出やすい
流動的推論(FRI)
新しい課題への柔軟対応
パターンの理解は得意だが、曖昧な課題は苦手
ASDの子は、構造化された課題に強く、曖昧な状況に弱いという特徴があります。この特性が、学校生活や人間関係で「空気が読めない」「急な変化に弱い」と見られる背景にあります。
🔍 ADHDとの比較ADHDでは「注意の持続」や「衝動の制御」の難しさが中心で、WISCではワーキングメモリや処理速度が低めに出やすい。ASDでは「意味づけ・構造化」の弱さが中心という違いがあります。
生物・心理・社会モデルでみるASD
生物的側面
脳の情報処理ネットワーク(前頭葉―側頭葉―小脳連関など)に特性があり、光・音・触覚への感覚過敏・鈍麻も見られます。こうした感覚処理の違いが、日常の不安や混乱のもとになることがあります。
心理的側面
ASDの発達は、「認知発達(考える力)」と「関係発達(他者とつながる力)」が非対称に進みます。物事のルールや法則を理解する力は高いのに、人との関係づくり(社会的参照・共同注意・模倣)には時間がかかるのです。
社会的側面
ASDの子は、社会の“暗黙の了解”や“空気”といった非言語的な文脈を読み取るのが苦手です。社会の側が「わかりやすい構造」を示してあげることが、適応の第一歩になります。
幼児期に現れる兆し ― 社会的参照の困難
ASDの特徴は、幼児期から現れます。赤ちゃんは通常、親の表情や声を“参照”して行動を決めます(社会的参照)。しかしASDの子は、その参照がうまく働きません。
親の表情を見ない
名前を呼んでも反応が鈍い
一人遊びが多い
こうした様子が、3歳児健診などで指摘されることもあります。「関係発達の遅れ」が、後のコミュニケーションの土台に影響していきます。
構造を愛する ― ルーティンとこだわりの世界
ASDの子どもたちは、世界を“変化”ではなく“規則”で理解します。朝の支度の順番、登校ルート、食事の配置――その子なりの“ルーティン”があり、崩れると大きなストレスになります。
💡 ルーティンは安心の構造ASDの子にとって、こだわりや決まりごとは安心の拠り所。「なくす」ではなく、「理解し、活かす」視点が大切です。
また、規則性への敏感さがあるため、鉄道・時刻表・カレンダー・数字・天気など、明確なパターンを持つものを好む傾向があります。これは「構造を通して世界を理解したい」という自然な表れです。
男性に多い理由とカモフラージュASD
ASDは、男性が女性の約4倍といわれます。生物学的には胎児期のテストステロン量が社会的認知の発達に影響しているという説があり、社会的には女子が模倣・観察によって特性を隠しやすいことも関係しています。
「カモフラージュASD」と呼ばれるタイプは、周囲に合わせようとしすぎて思春期以降にうつや不安症を併発することもあります。
ADHDとの違い ― 「調整」と「構造」
観点
ADHD
ASD
主な困難
注意・感情の調整
状況の構造理解
困りごとの原因
「わかっていても抑えられない」
「何が起きているのかわからない」
支援の方向性
刺激を減らす
環境を明確にし見通しを与える
ADHDでは環境の刺激を調整し、ASDでは環境の構造を明示することが支援の鍵になります。
支援のキーワード ― 「見通し」と「安心」
ASD支援の本質は、「次に何が起こるか」がわかること。予測可能な環境が、最大の安心を生みます。
スケジュールを見える化する
状況の変化を事前に予告する
ルールや手順を言語化・明文化する
🧩 柔軟性は“学ぶ”もの安心できる構造の中で、少しずつ変化に慣れていく――それがASD支援の第一歩です。
家庭でできるASD支援のポイント
説明は具体的に、順序立てて 「ちゃんとして」ではなく、「まず〇〇して、次に〇〇してね」と段階を示す。
感情ではなく構造で伝える 「どうしてそんなことするの!」ではなく、「それをすると〇〇になるよ」と結果で伝える。
変化を予告する 「明日は時間割が変わるよ」「お客さんが来るよ」と事前に知らせて安心をつくる。
まとめ ― 「空気を翻訳する社会」へ
ASDの子どもたちは、「空気を読まない」のではなく、**“空気があいまいすぎて読み取れない”**だけ。
社会の側が「空気をわかりやすく伝える」工夫をすれば、彼らは自分の力を安心して発揮できます。
🌱 ASD支援とは、「空気を読む力」を求めるのではなく、「空気を翻訳する力」を社会全体で育てること。
参考資料・引用
American Psychiatric Association (2022).……