3月, 2024 | 不登校サポート | 家庭と子どもの再スタートを応援します

2024年3月

高校2年生から不登校し始めて高校3年生になったあなたへ

高校2年生から不登校になって、大学受験を控える高校3年生になったあなたへ 不登校から大学受験はできるのか?

不登校だからといって大学受験をあきらめる必要はありません。不登校をしていても、通信高校に途中で転学したとしても、大学受験は十分に可能です。今は、受験の仕方が大きく3つあります。①総合型選抜(旧AO入試)、②学校推薦型選抜(指定校推薦・公募推薦)③一般入試の3つです。このうち、学校推薦型選抜では、受験に学校長の推薦が必要になるため、その際に、不登校をしたこと(出席日数)が影響して、推薦を受けられない、ということも可能性としてはあり得ます。

総合型選抜入試、一般入試は不登校の影響を考える必要はありません。総合型選抜については出願要件に、評定や英語の資格等が決められている場合はありますが、出席日数や転学したことを理由に出願を拒まれることはありません。

気を付けないといけないのは全ての入試に「卒業見込みのもの」という要件が含まれます。卒業することが求められます。

高校3年で卒業見込みがない場合はどうするべきか?

卒業見込みがない場合は、留年しないといけないのか?というとそういうことではありません。今は高卒認定試験が高校に在籍していながらも受験できます。3年生まで上がってきているのであれば、取得できている単位もあると思いますので、全部を受験する必要はないと思います。必要な単位を取って、高卒認定を受けることで、大学受験資格を得ることが出来ます。ただし、高校を卒業しないで高認試験に合格し、高校を中退した場合は「高校卒業」にはなりません。あくまでも「高校卒業者と同等の学力を備えた」ということを証明するだけで、その時点での学歴は「中卒」になります。

高認試験は、8月と11月の2回実施されます。この2回を逃すと、次年度ということになります。詳しくは文部科学省のページを参照ください。https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiken/

大学受験をすると決めたらやること

大学受験において大事なことは、大学で何を研究したいか?ということです。これがないと大学での学びが受け身となってしまいます。自分で立てた問いに基づいて仮説を立てて、その仮説を検証する。そして考察して、さらに問いを立て・・・ということが求められます。高校までのように、教科書にあることを学ぶような授業もありますが、多くは自分で学びのテーマをもって学問に取り組むことになります。大学を選ぶ際に特に次の3つは重要です。

①自分が取り組みたいことを明確にすること。②その取り組みたいことが実現できる大学・学部・学科がどこかを調べること。③その大学に足を運ぶこと。

①の自身が取り組みたいことがなければ、どうやって大学を選ぶのでしょうか?偏差値や大学や学部のイメージで選ぶのはとても危険です。大学では高校以上に自ら学ぶ、研究する姿勢が問われます。やりたくないことに時間と労力を費やすことは非常に辛い大学生活となります。

②についても同じです。いくら自分のやりたいことがあっても、それが入った大学でできなければ意味がありません。歴史に興味がある高校生が、文学部の史学科に合格しました。しかし、彼は別の大学に行くことにしました。そちらの大学の方が世間的に有名で偏差値が高いからです。ところがその大学では歴史の研究ができません。彼は、「自分と話の合う学生がいない」と、ややさみしい思いをしながら2時間以上かけて、その大学に通っています。

③については大学自体見てほしいのはもちろんですが、大学の周辺も見てほしいところです。地方から都会に出るとなると、大学の周辺がどんな街かも重要です。地図だけでは分からないです。また、実際に足を運ぶと、自分がどんなキャンパスライフを送るかを具体的にイメージし、受験に対するモチベーションアップにもつながります。今はどの大学もオープンキャンパスの情報を積極的に発信しています。行きたい大学があれば、ぜひチェックしてください。特に総合型選抜を受ける場合は「オープンキャンパスに来ましたか?」は面接で問われる可能性のある質問です。

 

大学に合格して一番怖いミスマッチ

入学して「これは違った」というミスマッチが起きると、通うこと自体が億劫になります。不登校を経験した人であると、「また、行きたくなくなった」と自分を責めてしまいます。そして「自分は社会に適応できない」とネガティブなレッテルを張ってしまって、余計に落ち込んでしまいます。

大学には不登校はありません。大学に行けなくなる=単位が取れないということになり、単位が取れなければ留年、留年を繰り返せば退学ということになります。そうならないためには、自分の興味関心や取り組みたいことなど、自分自身の内発的な思いから大学・学部・学科を選ぶことです。

仮に卒業にこぎつけたとしても、多額の学費をつぎ込んで自分の将来に益にならない(と考えてしまう)学問に身を浸すことになります。成績が振るわず、大学でも友人ができない、なんてこともあります。そうすると就職活動で尋ねられる「ガクチカ(学生時代に力を入れて取り組んだことを大学生が略して言うことば)」において語ることがたいしてないということになります。

自分を卑下しないこと

不登校している高校生の多くは「自分は不登校している(した)から」と自らを低く評価する傾向にあります。そのことをずっと負い目に思い続けることはあまり意味がありません。大学側は不登校していてもしていなくても、研究したいことがある学生を歓迎してくれます。その思いがあれば、総合型選抜の面接でも語ることが出てきますし、一般入試の大変な勉強にも気持ちが乗ります。受験資格があり、取り組みたいことは明確であれば後はやるだけです。

また、「大学4年間やっていけるだろうか?」という継続に対する不安も持っています。確かに、中学、高校と不登校したということで自身を失うこともあると思います。これについては、自分1人でやろうと気負わないことです。大学では仲間ができます。しかも、取り組みたいものが似通っている人と出会えます。自分よりもすごいひと、面白い人、ちょっと変わった人など多様な人との出会いのなかで、支えられて4年間過ごすことになります。「コミュ力がない」と自認するなら、「コミュ力がない」自分をそのまま出せるところでもあります。その自分と付き合ってくれる人と仲良くすることになります。それが一生の付き合いの友人になる可能性も十分にあります。

自分を卑下することはいったん脇において、自分の将来を思いっきり描いてみてください。

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不登校の解決に向けたメルマガを読む 不登校やキャリア教育に関するコラム やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景 やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景 (生物心理社会モデルでみる不登校の背景③/シリーズ記事)

朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。

本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178

「やめたいのに、やめられない」

スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。

けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。

特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。

依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。

生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく 生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム

ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。

思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。

さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。

つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。

親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。

 

特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。

心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間

多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。

現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。

「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。

社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー

学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。

同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。

親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。

大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。

生物心理社会モデルでみる全体像 親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます 要因 特徴 支援の方向 生物 ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計 睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る 心理 不安・孤独・承認欲求/安心の希求 現実で安心できる活動や関係を増やす 社会 家庭内の緊張/オンライン文化の圧力 対話的な関係づくり/使い方を共に設計する 家庭でできる工夫

・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく

依存症の治療について

もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。

日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。

治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。

 

親の育て方の問題ではありません

依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。

安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。

今日のまなざし

ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。

参考・参照

・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」

関連リンク・生物心理社会モデル(総論)に戻る:https://visionary-career-academy.com/archives/4178・第2回:朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン:https://visionary-career-academy.com/archives/4194

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

✨ ひとりで抱えこまず、メールでご相談ください ✨

このコラムは、不登校や引きこもりのお子さんをもつ親御さんのためにお届けしています。 お子さんの状況や支援の方向性など、メールでのご相談を受け付けています。 ご質問には順次お返事しております。

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不登校しているお子さんを持つ親がとるべき最も必要な対応

不登校しているお子さんを持つ親にとって最も重要な対応とは? 不登校対応で求められるものは?

不登校の対応を調べて、行動することよりも、実は難しいのが「待つこと」です。何もしないでじっと待っている、というのは、自分が「何もしていない、子どもが大変なのに、サボっている」人間のようで嫌かもしれません。しかし、この「待つこと」を覚悟を決めて、子どもの様子を見ていると、そこには何らかの変化があることを見ることができます。不登校中に起こる変化は、必ずしも望ましいものではないかもしれません(昼夜逆転、食事をしない、ゲームやネットにハマる・・・など)ただ、これもプロセスとして起こりやすいことです。この様子を待ち続けると、今度は子どもの方が「親の対応が変わったぞ」ということで考え始めます。子どもが何かを言い出すまで、動き出すまでは相当に大変なことですが、ここをこらえないことには、不登校の根本的な問題は解決しないと言えます。ちなみに不登校の根本的な問題とは、子どもの自立です。

待つことによる変容

哲学者の鷲田清一さんの『待つということ』からの引用です。

「ぼくも学校に通うのが嫌だったり会社をやめたかったときなどに、学校の敷地内や会社の近くの公園にお気に入りの場所を作り、ある期間、折があればそこに出向いて、あ足元を歩く鳩なんかをみながら、ふやけた姿勢で茫然と座っていたという経験がありますが、そんなときには、悩んでいてもらちがあかないことに嫌気がさして、いったん何事かを放棄し、新たな構えを作るというか、決心の訪れを待っていたような気もします。(中略)決心にも、『する』のではなく、『待つ』の一面があるのかもしれません。何事かを捨てて空虚な場所をつくり、水が満ちてくるように何かがやってくるのを『待つ』とでもいうか。全部を本当に捨てることは不可能ですから、からだを退避させることで、象徴的に捨てていたに過ぎないでしょうけれども。」

この文は鷲田清一さんの編集者の方が鷲田さんに宛てた手紙にあったそうです。

何かをするということは、結果として焦りをもたらします。そしてその焦りは、次の段階へいく構えを作ることをせずに、どんどん行動させられてしまうことになり、結果として疲れてしまいます。

不登校のご相談に来られる方の多くは、これまでいろんな対応を試みたが思ったような効果がでなかったと、疲れている親御さんです。

不登校を一種の病理と捉えてみる。

風邪も腹痛も何もしないで、身体の機能に任せて治るのを待つ姿勢、が基本的にあるから感知するんだろうと思います。もちろん服薬等もありますが、基本的には休むということは病気がなくなって、からだが回復するのを待つということです。数日待っていると治ります。不登校を病気と同じようにとらえると、自分の力で何かを「する」のではなく「待つ」ということも一つの対応として有効です。

学校にも行かず、担任とも話をしない、カウンセリングも受けない。フリースクールをすすめても見向きもしない。そんな中学生の親御さんが、不登校解決に奔走するのをやめて、この「待つ」を実践されました。日々普通に暮らして、会話をして、時に一緒に出掛ける。するとある日お子さんが「考えていることがあるんだ」と話をしてきました。そこから、事態は変化していきました。お子さんが自身の考えを言葉にするまでに、半年近くかかったそうです。家の手伝いも始めて、冬場は雪かき(雪国にお住まいだったので)をしたり、洗濯ものを取り込んだり、掃除をしたりするようになったそうです。彼の考えは農業に従事することだったようで、そこから農業の勉強を始めました。

子どもの自立に向けて必要だと分かっていても・・・

実はこの「待つ」というのは非常に難しく、上述のように自責の念に駆られますし、このまま放っておいて良くなるとはとても思えない状況があります。ただ、何かをやっても良くなる保証はありません。むしろ、最も身近な大人である親御さんが、社会に出ることを前向きにとらえて、お仕事をしたり、趣味を楽しんでいる背中を見せるほうが、よっぽど励みになります。不登校しているお子さんは「学校に行けない自分は社会に不適応な存在だ」と決めつけているところがあります。この決めつけを外すには「親が楽しそうだな」ということを言葉で伝えるのではなく、感じ取ってもらう必要があります。「待つ」ということは言い換えると「背中で語る」ということになるかもしれません。「君は大丈夫だ」「社会に出てやっていくことができる」という前向きなメッセージを背中から発してお子さんに届けてみてください。「待つ」ということにあえてもう一つ付け加えるならお子さんのことを「信じて」待つということです。

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朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。

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「やめたいのに、やめられない」

スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。

けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。

特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。

依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。

生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく 生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム

ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。

思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。

さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。

つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。

親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。

 

特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。

心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間

多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。

現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。

「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。

社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー

学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。

同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。

親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。

大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。

生物心理社会モデルでみる全体像 親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます 要因 特徴 支援の方向 生物 ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計 睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る 心理 不安・孤独・承認欲求/安心の希求 現実で安心できる活動や関係を増やす 社会 家庭内の緊張/オンライン文化の圧力 対話的な関係づくり/使い方を共に設計する 家庭でできる工夫

・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく

依存症の治療について

もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。

日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。

治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。

 

親の育て方の問題ではありません

依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。

安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。

今日のまなざし

ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。

参考・参照

・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」

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文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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不登校している中学生2年生に春だからやってほしい進路の話合い

不登校している中学生2年生に春だからやってほしい進路の話合い 春という季節に感じる進路のプレッシャー

年度が変わるこの「春」という季節。世間一般は新入生、新学期、新学年など「新○○」という言葉があふれます。特に不登校している中学2年生にしてみれば、何もしていないのに学年が上がる、という妙な気分を味わう時期でもあります。とりわけ強いのが「取り残された感じ」です。学校に行っていないことで、自分だけが成長から取り残されているということからくる気後れがあります。そして中学2年生から3年生になるということで、「次」を考えないといけないちおうプレッシャーが一層強くなります。このプレッシャーから生活が乱れたり、言葉がとげとげしくなります。いままで一緒に取っていた食事をしなくなるかもしれません。外出に誘っても来ないかもしれません。様子が違ってくることは大いに予想できます。しかし、これは順調な反応とも言えます。プレッシャーを感じているので、これまでと同じようにふるまえないのは当然です。とはいえ、進路については、対応の仕方が難しい状況は変わりません。親としてどう対応することが良いのか?そのことについての提案です。

進路の話には真摯に向き合うこと

子どもがプレッシャーを感じているというのが分かってしまうと、あえてその話をしにくくなります。下手に言葉をかけて機嫌を損ねてしまったら余計に厄介になります。ただ、何も話し合わないでいる、子どもが何を考えているか分からないという状況は親自身も不安です。区切りの季節でもあることを機に一度話しあうということをされると良いです。大事なのはきちんと場を設けることです。なんとなく「どうするの?」と聞くと子どもにしてみれば不意打ちでしかなく、その場しのぎの答えを言ったり、「別に」とか適当にはぐらかされてその場を去ってしまうかもしれません。何気なくではなく「今日の夜、仕事から帰ってきたら進路の話をします。お義父さんとお母さんはあなたを応援したいから、現時点のあなたの考えを聞かせてほしい」と言い切ってしまうことです。ポイントは「現時点」のものであるということ、そして今日の話が決定ではないということです。対話の場をつくることで進路の話をしてもよい環境を整えていくことです。区切りの季節だからこそ提案してみることが大事です。ただし、その場に来ないかもしれません。その場合は、咎めないで、子どもさんに次の日時を設定させてみてください。大切なのは親はあなたの考えをいつでも聞きますよ、という姿勢を持つことです。

子どもの話をさえぎらない

子どもが進路の話合いのテーブルについた場合、まずは子どもの考えを聴きます。ここで傾聴できるかどうかで、今後の話合いが変わってきます。子どもが話し終えるまで、言葉を挟まずに聴きます。もしかしたらとんでもない絵空事を語るかもしれません。これまであったのが、プロゲーマーになる、Youtuberになる、海外に住む、起業する、世界一周旅行に行く、などです。などなど親からすれば「ろくに中学でも勉強していないのに・・・」って突っ込みたくなります。そこをグッとこらえて話を聴きます。そして、子どもが話し終えたら、親の意見を言う前に「なんでそれをしたいのか?」という理由を尋ねます。そして「それを実現するためにどういう手順を踏めばよいのか?」さらには「親として協力できることは何か?」などを尋ねてみます。理由までは話せるかもしれませんが、手順当たりはかなりいい加減になります。そこが語れないことを責めるのではなく、それは「次」の話し合いまでに調べたり考えたりしておいてもらうことにします。ここまで話を聴いたうえで、今度は親の意見を伝えます。これはあくまで「指示や命令」ではなく「提案」として伝えます。不登校しているお子さんは進路の話についてはかなり情報が希薄です。話し合いの場までに親の方でも、高校にどんな選択肢があるのかを調べます。ここは学校に協力を仰いで、どんな進路が考えられるかを整理した資料などを提供してもらうと良いかもしれません。

進路の話合いの主役は子ども

言うまでもなく、中学卒業後、どんな進路をとるかは子どもが決めるものです。そして、子どもが願う進路をできるだけ実現させてあげるようなサポートが親には求められます。初めは絵空事を言います。しかし、その絵空事を応援してあげてほしいのです。頭ごなしに親の意見を言うのは禁物です。絵空事が絵空事であるということは本人もうすうす分かっています。その分かっていることをお親が応援してくれるという経験が重要です。この経験が親を始めとした大人への信頼回復につながります。そして、進路の話がしやすくなると、子どもはプレッシャーから少しだけ解放されて行きます。中にはその絵空事に本気で取り組むお子さんもいます。それは本人の自立を促しています。もちろん一筋縄ではいかないところがありますから、うまくいかなくて落ち込んだり、途中で投げ出したりもします。こういったトライ&エラーの経験をするから、より精神的にも自立をしていくということがあります。

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朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。

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「やめたいのに、やめられない」

スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。

けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。

特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。

依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。

生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく 生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム

ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。

思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。

さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。

つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。

親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。

 

特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。

心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間

多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。

現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。

「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。

社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー

学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。

同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。

親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。

大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。

生物心理社会モデルでみる全体像 親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます 要因 特徴 支援の方向 生物 ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計 睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る 心理 不安・孤独・承認欲求/安心の希求 現実で安心できる活動や関係を増やす 社会 家庭内の緊張/オンライン文化の圧力 対話的な関係づくり/使い方を共に設計する 家庭でできる工夫

・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく

依存症の治療について

もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。

日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。

治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。

 

親の育て方の問題ではありません

依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。

安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。

今日のまなざし

ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。

参考・参照

・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」

関連リンク・生物心理社会モデル(総論)に戻る:https://visionary-career-academy.com/archives/4178・第2回:朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン:https://visionary-career-academy.com/archives/4194

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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このコラムは、不登校や引きこもりのお子さんをもつ親御さんのためにお届けしています。 お子さんの状況や支援の方向性など、メールでのご相談を受け付けています。 ご質問には順次お返事しております。

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不登校している子どもを立ち直らせるヤバイ方法

不登校している中学生を立ち直らせる反抗期を活用したヤバイ方法 不登校の対応として休ませるの次が見えていない

子どもが不登校になってしまいました。まずは担任の先生、学年主任、そしてスクールカウンセラーなど学校に相談に行きます。するとひとまずは無理に登校させずに休ませるということになります。しかし、この後どうしたらいいかが、分からないのです。「様子を見ましょう」は時に必要なことです。本当に様子を見ることが必要な場面はあります。しかし、どういう状況になってもこれしか言わない専門家は逃げているか、アイディアがない、というのが正直なところです。いろいろな対処法はあります。今日ご紹介するのは、荒療治的な側面のある「逆説的アプローチ(逆説療法というのが一般的かもしれません)」ヤバイ方法です。逆説的アプローチというのは、文字通り、世間の常識とは逆の方向への促しをすることです。前回のコラム(不登校している中学生 ずっとゲームをしているやめさせた方がよい?)でも紹介しましたが、子どもがゲームやネットをやっていて、あえてそれをどんどんやらせるということで、いずれ飽きさせてしまうというものです。この逆説的アプローチ(逆説療法)は、フレデリック・パールズ(ゲシュタルト心理学)やアルバート・エリス(論理療法)など、多くの心理学者が活用した方法でもあります。

反抗期と逆説的アプローチ

もう少し詳しく説明します。中学生くらいの思春期世代は「反抗期」です。接しにくい時期ですが、反抗期の「反抗」の目的は「反抗すること」です。自分の考えと同じことを親が言っても「うるさい」「関係ない」といって反抗します。この反抗期の心理メカニズムとこの逆説的アプローチは相性が良いです。

ゲームを例に考えると、親への反抗として学校に行かずにゲームに没頭している場合、親が「ゲーム頑張っているね?」とか「どんどんゲームをやったらいいよ」と言われると、なんだかいらだってきます。「ゲームをしたい」という気持ちと親に反抗したいという気持ちがぶつかって、「ゲームなんかくだらない」といって辞めることさえあります。反抗期は自立のプロセスです。親の支配下にあることを嫌います。「ゲームをやめなさい」と言われるとその反抗としてゲームをやりますが、「ゲームをやりなさい」といわれると、ゲームをやることが犯行にならず、親の指示に従うことになるので、なんだか気持ちが落ち着かないのです。

逆説的アプローチをとことんやったお母さん

この方法を本気でやったお母さまがこれまでに何名かいらっしゃいます。そのお一人がAさん。この方の息子さんが不登校になりました。その時このお母さまが問った行動が、「自分も仕事を休む」ということでした。そして息子さんと、「せっかく私も休んだから旅行にいこう」と二人で車に乗って、遠出をします。温泉に入り、観光名所をめぐり、テーマパークで1日中遊び、おいしいものをたべ、息子さんがほしいといったお土産は何でも買ってあげました。そして、4日ほどして帰宅しました。Aさんは息子さんに「来週はどこにいこうか?」と尋ねると息子さんが「おれ学校行くわ。お母さんと遊んでいたら身が持たない」といってきました。しかしAさんは譲りません。「今回は西方面だったから、今度は東に行こう」と誘います。すると息子さんが「お母さん、仕事こんなに休んで大丈夫なの?」と逆に心配されてしまいました。そういうわけで旅行は無しになりましたが、Aさんは「せめてディズニーランドだけはつきあってよ」と言って、翌々週に2人でディズニーランドに行ったそうです。当然、息子さんはその後学校に行くようになりました。

「学校を休む」ということをネガティブにとらえず「親子で過ごす貴重な時間」と捉えて、待ってましたとばかりに一緒に出掛けたことで、本来反抗としてとった「学校を休む」行動が、むしろ「親を喜ばせる」ことにつながったので反抗としての不登校が止んだ、と捉えることができます。

子どもが今やっていることを認めることにもつながる

逆説的アプローチには「今子どもがやっていること」への承認が含まれます。結果として認められたお子さんの肯定感がもどって、立ち直っていくものと考えられます。このお方法を用いる際に、二つの注意点があります。一つは「はかりごととしてやらない」ということです。「こうすればうまくいくだろう」という意図をもってやるのではなく、自分もその世界に一緒に入っていくということです。

前述のお母さまのように、本気で旅行に行きたい、という思いをもっているからこそ、子どもが引いた(冷静になった)面があります。

もう一つが、万能な方法ではないということです。特に、過食や拒食、ドラッグや飲酒、リストカットなど身体に影響を及ぼすような行動がある場合は、そのことをどんどんやらせることは危険です。もちろん専門家の中にはそういう方にも、逆説的に関わる方もいらっしゃいますが、家庭では辞めたほうが良いです。心理的には満たされても体の健康を損ない、かえって自分を責めたり、生きる気力を失ったりすらします。

また、認知に特性がある(特にASD傾向)の場合も使用しない方が良いです。ASD傾向のお子さんは、言われたことを字義通りに受け止めます。「やっていい、どんどんやりなさい」と言われると、そのままやり続けてしまい、やめさせること自体が難しくなります。

家庭で実践する場合には、子どもの反抗的な行動をうまくとらえて、そこにたいして逆説的に関わっていくことです。もっともやりやすいのが、子どもが楽しんでいることを応援する、一緒に楽しむ、親の方がそのこと(ゲームなど)に卓越するなどがあります。

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不登校の解決に向けたメルマガを読む 不登校やキャリア教育に関するコラム やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景 やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景 (生物心理社会モデルでみる不登校の背景③/シリーズ記事)

朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。

本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178

「やめたいのに、やめられない」

スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。

けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。

特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。

依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。

生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく 生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム

ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。

思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。

さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。

つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。

親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。

 

特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。

心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間

多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。

現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。

「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。

社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー

学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。

同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。

親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。

大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。

生物心理社会モデルでみる全体像 親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます 要因 特徴 支援の方向 生物 ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計 睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る 心理 不安・孤独・承認欲求/安心の希求 現実で安心できる活動や関係を増やす 社会 家庭内の緊張/オンライン文化の圧力 対話的な関係づくり/使い方を共に設計する 家庭でできる工夫

・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく

依存症の治療について

もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。

日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。

治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。

 

親の育て方の問題ではありません

依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。

安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。

今日のまなざし

ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。

参考・参照

・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」

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文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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このコラムは、不登校や引きこもりのお子さんをもつ親御さんのためにお届けしています。 お子さんの状況や支援の方向性など、メールでのご相談を受け付けています。 ご質問には順次お返事しております。

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不登校している中学生 ずっとゲームをしている やめさせた方がよい?

不登校している中学生 ずっとゲームをしているやめさせた方がよい? 不登校しているお子さんに今日は何してた?とたずねると・・・

不登校しているお子さんで、「今日は勉強してました」と応えてくれるお子さんは稀です。すくなくとも、私がこれまで出会ってきた中高生にはいませんでした。何をしているかというと、たいていはゲームまたは動画をひたすら見ている、という感じです。最近は夜中にAmazonプライムやネットフリックスでアニメやドラマを一気見している、という話も聴きます。こういうコンテンツとの付き合いに気をもむ親御さんからも話のご相談も受けます。「ずっとゲームしている」「ひたすら動画を見ている」そういうお子さんいたいして、「どうやってやめさせたらいいか」、「そもそもやめさせて良いものか」、といったご相談です。

子どもたちはゲームや動画で何を得ているか?

ゲームや動画をやめさせるかどうかの判断は結構難しくて、状況やお子さんの特性にもよります。そこで判断のヒントになるのが、「子どもがゲームや動画で何を得ているのか?」です。面白い、楽しい、落ち着くといってポジティブなものを得ているのであれば、少なくともゲーム機やネット端末を取り上げる必要はありません。どういうコンテンツを楽しんでいるのか、話を聴いてみてください。これは子どもに限らず自分の好きなものを人に話すことは嬉しいことだからです。不登校しているお子さんは自己肯定感が下がっていることがおおく、そこから気持ちを引き上げるには言葉をポジティブな経験をする必要があります。しかし、ずっと家にいるとポジティブな経験はしにくいです。そこに、自分の好きなコンテンツの話に耳を傾けてくれる人がいることは、子どもにとっての励みとなります。

一方で、「なにもすることがないから」とか「なんとなく」というものであれば、ゲームや動画以外のことで何かできないか、と話しあうことが必要です。また、「本当はやめたいけど、気が付くと数時間経っている」という場合は、途中で声をかけるなど、申し合わせておくことも大切です。子どもの話を聴かずに機器を取り上げて強制的に引き放すことは多くの場合得策ではありません。まずは何を得ているかを尋ねて、ネガティブな場合は別の何かをするように促す。

ゲームや動画から子どもを引き離す方法

ゲームや動画からお子さんを引き離す方法として2つ提案します。

1つは時間の可視化です。1週間くらいの短いスパンでどれくらいゲームや動画に時間を当てたかを紙(できれば大きめ)に書いていきます。そして最終的にそれが寝ている時間と食事やお風呂の時間を除いた自由な時間のどれくらいの割合なのかを計算します。以前にこの方法で小学6年生の男の子が「やばいですね~」と自覚して、ゲームを離れて、もともとやっていたサッカーに戻っていったということがあります。

もう一つの方法はどんどんやらせることです。1日最低〇時間以上ゲームまたは動画に充てると決めます。これは逆説的アプローチという一つの方法で、あえてとことんやらせて応援する、ということです。「そんなことして大丈夫?」と思われますが、この背景にしゃゲシュタルト心理学の「Unfinished business(未解決の問題)」というものがあります。気が済んでいないからいつまでも続けてしまうのであって気が済むと人はやめてしまうという考え方です。

これもかつてネットゲームにはまって不登校になったお子さんがいらっしゃって、「そのゲームで1位になるまで学校に行っても勉強してもいけない」ルールを定めたところ、1週間もしないうちに「もう無理です」ということでゲームから離れました。ただ、この2つ目の方法で気を付けないといけないのはASDなど過集中になりやすいお子さんには逆効果なるので注意が必要です。

ゲームや動画にはまってしまう子どもは何を考えているのか?

ゲームや動画にハマってしまうというお子さんの心理でよく言われるのが「現実逃避」です。ゲームやアニメがもつ没入感が現実の様々な問題から切り離してくれます。では何から逃げているのか?ということですが、それはズバリ「自分の人生」から逃げているのです。「これからどうするのか」「自分はどうやって生きていこうか」「自分は生きている意味があるのか、価値があるのか」そういった、人生からくる問いからの逃避です。これは不登校しているお子さんに限らず思春期世代のお子さんの多くが苦しめらる問いです。逃避しなければやっていられない、というくらい重く、そして苦しい状況です。逃避せずに立ち向かうと「死にたくなる」問いでもあります。ネガティブな言動が出てきたときは、実はこの問いに立ち向かい始めた時です。びっくりする発言をしますが、その時から心が前に向いて動いていくことになります。

児童精神科医の佐々木正美先生は「自分が自分に寄せる希望や願望と、他者の評価による差や乖離を埋め合わせる生き様が、苦悩、混乱、努力で象徴される思春期の実態です。やりたいこととやれること、なりたいものとなれるものの間にある葛藤こそ、普通で正常な思春期の姿であり、それは誰もが程度の差こそあれ、通り過ぎなくてはならない思春期を生きる営みなのです。」と思春期時代の苦しみを示されました。まさに不登校して現実逃避して、そこから自分の人生の問いに立ち向かっている姿は思春期の苦悩そのものです。ネガティブな状況になるのは、必然でもあるのです。

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朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。

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「やめたいのに、やめられない」

スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。

けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。

特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。

依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。

生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく 生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム

ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。

思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。

さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。

つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。

親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。

 

特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。

心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間

多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。

現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。

「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。

社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー

学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。

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親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。

大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。

生物心理社会モデルでみる全体像 親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます 要因 特徴 支援の方向 生物 ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計 睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る 心理 不安・孤独・承認欲求/安心の希求 現実で安心できる活動や関係を増やす 社会 家庭内の緊張/オンライン文化の圧力 対話的な関係づくり/使い方を共に設計する 家庭でできる工夫

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依存症の治療について

もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。

日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。

治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。

 

親の育て方の問題ではありません

依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。

安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。

今日のまなざし

ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。

参考・参照

・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」

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