6月, 2023 | 不登校サポート | 家庭と子どもの再スタートを応援します

2023年6月

不登校の日常に希望を見いだす

不登校の日常に希望を見いだす 毎日一緒にいると、悪いところばかりに目が行ってしまう

朝は起きてこない、昼間は部屋にこもって何をしているか分からない。

でも、たぶん勉強はしていないだろう・・・話しかけてもそっけない。

普段一緒に生活していると悪いところばかり目につきます。そして、たいして変わり映えしない日々に「いつまでこの状態が続くのか?」と不安になることと思います。

そのような状況において前向きに動くことは難しく、手を尽くしているけど、成果が上がらないことに絶望感を覚えることさえあるかと思います。

お子さんの変化を見つけていく

確かに、日々の生活のなかでのお子さんの成長は見つけにくいです。

しかし、遡って考えてみてください。不登校になり始めたころと、今を比べるとどうでしょうか?

感情の起伏がへり落ち着いたたわいもない会話を交わすようになった外出するようになった進路のことを口に出すようになった

何かしらの変化を見ることができないでしょうか?もし、全く変化がないというのであればそれは、評価する視点が厳しすぎると思われます。

部屋に引きこもっていた息子が網戸の修理を!

高校生の息子さんが不登校となり部屋から全く出てきませんでした。家族との会話も少なく、食事も部屋で食べていました。しかし、徐々にリビングで過ごす時間が増え、母親だけでなく、父親とも兄妹とも話をするようになりました。

昼間に一人で散歩に行くこともあり、表情も明るくなってきました。そんなある日、網戸の網戸が外れてきていることに息子さんが気づきました。彼は「直すための材料を買ってくるからお金がほしい」と親に求めてきたので、お金を渡して様子を見ました。彼は近くのホームセンターに行って変えるための網と接着剤を買ってきて、網戸の網を変えました。外れていたところだけでなく、外れかけそうな網戸も修理しました。

彼は家に居て外を眺めることが多く、網戸のことが気になっていたこと、一人での散歩ルートにホームセンターが入っており、どうやって網戸を修理したらいいかを店員に尋ねて材料を買ってきたことなどを自らやってのけました。

希望の種をさがす

この家庭が特別何かをしたわけではありません。このお母さまもカウンセリングで「全然だめだ」ということばかりを話す方でした。しかし、少しずつ子どもの変化に目が行くようになり、そのことを嬉しく思っておられたようです。

時間の経過とともに子どもは確実に変容していきます。その違いを日常に中で見つけていくことで、親自身前向きな気持ちを保つことができます。

また、その変化を子どもにフィードバックできれば、なお自身がつきます。もちろん、思春期世代ですから、素直に受け止めずに「別に」とか「そんなことない」としか返ってこないと思いますが、伝えることは大事です。

何気ない日常かもしれませんが、その中にこそ、不登校から脱していくための解決の種がたくさん落ちています。お子さんの小さな変化からも、成長を見いだしていくことができると、親自身もお子さん本人も希望をもって歩むことができるようになります。

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不登校の解決に向けたメルマガを読む 不登校やキャリア教育に関するコラム 集中できない子 ― ADHDと学びの工夫 集中できない子 ― ADHDと学びの工夫 (生物心理社会モデルでみる不登校の背景⑤/シリーズ記事)

本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。

基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178

「集中できない子」は、努力が足りないわけではない

授業中に立ち歩く、話を最後まで聞けない、宿題を忘れる。注意されたことをその場で謝っても、翌日にはまた同じことをしてしまう。

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中のしにくさ(不注意)・落ち着きのなさ(多動性)・思いつくままに行動する(衝動性)という特徴を持つ、神経発達症(発達の特性)です。

ADHDの特徴と、「困り感」の実際

ADHDの子どもたちは、知的には平均的、場合によってはそれ以上の力を持ちながらも、「わかっているのにできない」ことで大きなストレスを抱えています。

本人の困り感

・授業で話を聞いていても、途中で頭が別のことを考え始めてしまう・宿題をやる気はあるのに、机につくまでに他のことに気を取られる・感情が急に高ぶって、後で「なんであんなこと言ったんだろう」と落ち込む・友達との会話で話を遮ってしまい、「うるさい」と言われる

本人は多くの場合、「やる気がない」と思われていることを苦しく感じています。

学校での困り感

・注意される回数が多く、教師からの評価が下がりやすい・授業中に立ち歩く・忘れ物が多いなど、集団のペースに合わない・テストではケアレスミスが多く、実力が正しく評価されない・叱責が続くことで、「自分はダメな子」という自己否定が強まる

家庭での困り感

・「何度言っても同じことを繰り返す」と親が疲弊する・宿題・片付け・時間管理などが日常的な衝突の原因になる・家族が緊張状態になり、親子関係が悪循環に陥る・兄弟姉妹との比較で、親自身が罪悪感を抱くこともある

こうした困難の背景には、脳の情報処理の特性があり、努力やしつけの問題ではありませ

生物・心理・社会 ― 三つの視点でとらえるADHD 生物(Biological)― 脳のネットワークの違い

ADHDでは、前頭前野(集中・計画)と線条体(報酬系)の働きのバランスに特徴があります。脳の「報酬系」が刺激に強く反応し、ドーパミンやノルアドレナリンの調整が不安定になります。

そのため、・興味があることには極端に集中できる(過集中)・興味のないことには集中が続かない

といった偏りが生まれます。これは意志ではなく、脳の情報処理のスタイルによるものです。

心理(Psychological)― 「わかっているのにできない」苦しさ

ADHDの子どもたちは、「自分が悪い」と思い込んでしまうことが多いです。何度も注意されるうちに、「また怒られる」「どうせ失敗する」と自己否定的な信念が強まります。

叱責よりも、行動の背景を理解し、仕組みで支えることが必要です。「集中が続かないからこそ、短時間で区切る」「忘れやすいから、視覚的にリスト化する」――そうした支援が心理的安心を生みます。

社会(Social)― 学校・社会の中で起こること

学校では、ADHDの子どもが「ルールを守れない」「空気が読めない」と見られがちです。

授業中の立ち歩き、提出忘れ、ミスの多さ。それは怠けではなく、注意の持続と実行機能の弱さによるものです。

特に、板書・作文・ノート取りなどの「書く作業」が苦手な場合、努力しても成果が見えにくく、学力が低く評価されがちです。

WISC-V(発達検査)でみるADHDの特徴  発達検査(WISC-V)では、ADHDの子どもに以下のような傾向が見られることが多いです。 指標 特徴 学習面への影響 言語理解(VCI) 会話力や語彙は比較的高い 話すのは得意だが、長い説明を聞き続けるのは苦手 視空間(VSI) 図形・位置関係の理解は得意 空間把握力はあるが、細部のミスが出やすい 流動性推論(FRI) パターン認識・推論に強み 抽象的思考はできるが、課題に集中が続かない ワーキングメモリ(WMI) 数字や情報を一時的に保持する力が弱い 「覚えておいて」が難しく、聞き漏らしが多い 処理速度(PSI) 作業のスピードが遅い傾向 テストや書字に時間がかかる/ケアレスミスが出やすい

このように、知的能力そのものは十分あっても、注意の持続・処理速度・記憶の一時保持の弱さが、学習上の困難につながることがあります。

DSM-5とICD-11による診断基準

ADHDは、DSM-5(米国精神医学会)とICD-11(世界保健機関)で以下のように定義されています。 ●DSM-5(2022) 不注意・多動性・衝動性のいずれかまたは両方の症状が12歳以前から持続し、社会的・学業的機能に支障をきたしている。 症状は少なくとも2つ以上の状況(例:家庭・学校)で認められる必要がある。   ●ICD-11(2023) 発達にそぐわない不注意・過活動・衝動性が持続的にみられ、学校・家庭・職場など複数の場面で機能障害をもたらしている。 神経発達症の一つとして分類。ADHDという名称をそのまま使用。   いずれの基準でも、「単に集中できない」だけではなく、 生活や学業に支障をきたすレベルで持続していることが診断の前提です。   また、発達検査だけで診断が確定するわけではありません。 臨床では、家庭・学校での行動観察面接による生活史の聴き取り 保護者・教師の評価質問票(例:Conners 3、ADHD-RS など)を総合して判断されます。

ADHDの服薬治療

薬物療法は、脳内の神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン)を調整し、集中・衝動性を安定させる目的で行われます。

代表的な薬剤:・メチルフェニデート(コンサータ):集中持続を助ける中枢刺激薬・アトモキセチン(ストラテラ):非刺激薬。不安や衝動性にも効果・グアンファシン(インチュニブ):落ち着き・睡眠リズムの改善・リスデキサンフェタミン(ビバンセ):朝の覚醒・持続的注意をサポート

薬の効果には個人差があり、医師の慎重な調整が必要です。「薬で性格を変える」のではなく、「本来の力を発揮しやすくする」ためのサポートと考えてください。

特性に合った支援と、早期支援の意義

ADHDの子どもは、環境が整えば力を発揮できます。

学校に求めたい支援

・座席は刺激の少ない前方・壁側へ・板書をプリントで補助、または写真撮影を許可・宿題は量を減らし、達成感を味わえる設計に・テストでは時間延長・口頭回答を検討・忘れ物防止のチェックリストやファイルの色分けを導入・教師間で共通理解をもち、「叱るより仕組みで支える」文化をつくる

家庭でできる工夫

・時間を「見える化」(タイマー・スケジュールボード)・成功体験を言葉で具体的にほめる・失敗しても、「どうしたらできるか」を一緒に考える

早期支援がもたらす長期的な効果

ADHDの支援は、早期に始めるほど、ソーシャルスキル(対人関係能力)と自己理解の発達が良好であることが研究で示されています。

早期に自分の特性を理解し、支援を受けながら成功体験を積むことで、・対人関係の衝突が減る・学習意欲が維持される・将来の進路選択や就職の幅が広がる・自分の「得意」と「苦手」を自覚した自己実現が可能になる

つまり、ADHDの支援は“治療”であると同時に、“成長支援”です。本人の人生の選択肢を広げるための、前向きな取り組みなのです。

発達の先にある希望 ― 成熟する脳

多動や衝動性は、脳の前頭前野が発達する20代にかけて徐々に落ち着きます。しかし、片付け・整理整頓・時間管理などの「実行機能の弱さ」は残る傾向があります。

成人後も、・スマホのリマインダーで時間を管理・チェックリスト・ToDoリストで可視化・物の定位置を決めるといった環境デザインの工夫が、一生の支えになります。

親の育て方の問題ではありません

ADHDは、親の接し方や性格で起こるものではありません。脳の働き方の個性です。

そして、この個性は支援によって「弱点」から「才能」へと変化します。創造的で、柔軟で、情熱的。そのエネルギーを社会で生かせるよう、私たち大人が仕組みで支えることが大切です。

今日のまなざし

「集中できない」は努力不足ではなく、脳の特性。叱るより、仕組みと理解で支えることが、子どもを伸ばす最良の方法です。

参考・参照

・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR・World Health Organization (2023). ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics・厚生労働省「注意欠如・多動症(ADHD)に関する実態調査」(2020)・日本児童青年精神医学会『ADHDの診断と治療指針 第2版』(2021)・国立精神・神経医療研究センター「発達障害情報・支援センター」

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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このコラムは、不登校や引きこもりのお子さんをもつ親御さんのためにお届けしています。 お子さんの状況や支援の方向性など、メールでのご相談を受け付けています。 ご質問には順次お返事しております。

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不登校のお子さんへの父親の関わり方

不登校のお子さんへの父親の関わり方 不登校のお子さんに父親はどう関わる?

不登校のお子さんに対して父親の関わりってどうなのでしょうか?

お問い合わせいただくのはお母さまが多いです。このメルマガで学んでくださっている方も多くがお母さまです。もちろん、カウンセリングや学びの場にお父様やご夫妻で来られる方もいらっしゃいます。

不登校における回復において重要なのは親子関係です。その時に、父親、母親で役割が違うと良いなと思います。不登校のお子さんに対する父親の関わり方の提案として3つ挙げてみます。

1 長期的視座で進路の話をする

父親のかかわりとして一つ目は、進路の話をしてほしいです。長い視点でもって子どもに諭すということです。普段、身の回りの世話をしてくれる母親と違って、たまに父親と話をすると

子どもにとっても新鮮です。自分では分かっているし、母親と話すとケンカになることも父親との会話だとケンカにならないこともあります。

実際にお子さんの中で「お父さんに言われたから頑張ろうと思った」という方もいらっしゃいました。

説教がましく問いただすのは良くないですが、進路についてお子さんが安心感を持てるようなかかわりがあると良いです。具体的に父親の失敗談とそこからのリカバリなんかを話してもらえると、子どもは励まされます。

2 父親と二人で出かける

不登校のお子さんで、外に出ることができる場合は、外出することをお勧めします。

父親と二人での外出は、子どもにとってはやや緊張です。行先は、買い物でも食事でも、釣りでも映画でも何でもいいです。目的は不登校の日常に非日常を創ることです。

出かけた先では、不登校のことや学校のことなどの問題に触れずに、適当な雑談をとぎれとぎれで良いのでしてほしいです。

 

父親と二人きりのやや緊張するなかで、お子さんは内省をします。普段とは違う思考が頭をめぐるので、考え方や感じ方を変えるきっかけになります。この時間をぜひ取ってほしいと思います。

3 母親の話を聴く

これは不登校に限らず、子育ての場面ではどうしてもお子さんの身の回りの世話はお母さんがすることが多いです。でもそれを望んでやっているわけでは場合もありますし、お子さんが不登校になると、不安も募ります。

 

お母さんの愚痴や不満を聴くということがお父さんの役割になります。ここで重要なのは解決案を出さないことです。解決案は本人が出します。だから、ただ聴くに徹することです。そしてお母さんの話を理解することに勤めてほしいと思います。

また、夫婦が話しあっている様子は子どもにとって何よりも安心です。不登校になったせいでお父さんとお母さんがけんかするようになった、なればそれはそれで子どもにってダメージが大きいです。

父親の関わりの重要性

お父さんとのかかわりは子どもにってとても重要です。不登校のお子さんにとっては父親にどう思われているかは結構気になるところです。だからこそ、お父さんなりの寄り添う姿勢を見せつつ、夫婦の関係性を良い状態で保つことに留意する必要があります。

「子どもは夫婦の愛情のおこぼれで育つ」といったカウンセラーがいますが、まさにその通りで、子どもへの愛情はもちろんですが、夫婦での愛情も大切にして不登校の解決に向けて歩んでみてください。

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本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。

基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178

「集中できない子」は、努力が足りないわけではない

授業中に立ち歩く、話を最後まで聞けない、宿題を忘れる。注意されたことをその場で謝っても、翌日にはまた同じことをしてしまう。

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中のしにくさ(不注意)・落ち着きのなさ(多動性)・思いつくままに行動する(衝動性)という特徴を持つ、神経発達症(発達の特性)です。

ADHDの特徴と、「困り感」の実際

ADHDの子どもたちは、知的には平均的、場合によってはそれ以上の力を持ちながらも、「わかっているのにできない」ことで大きなストレスを抱えています。

本人の困り感

・授業で話を聞いていても、途中で頭が別のことを考え始めてしまう・宿題をやる気はあるのに、机につくまでに他のことに気を取られる・感情が急に高ぶって、後で「なんであんなこと言ったんだろう」と落ち込む・友達との会話で話を遮ってしまい、「うるさい」と言われる

本人は多くの場合、「やる気がない」と思われていることを苦しく感じています。

学校での困り感

・注意される回数が多く、教師からの評価が下がりやすい・授業中に立ち歩く・忘れ物が多いなど、集団のペースに合わない・テストではケアレスミスが多く、実力が正しく評価されない・叱責が続くことで、「自分はダメな子」という自己否定が強まる

家庭での困り感

・「何度言っても同じことを繰り返す」と親が疲弊する・宿題・片付け・時間管理などが日常的な衝突の原因になる・家族が緊張状態になり、親子関係が悪循環に陥る・兄弟姉妹との比較で、親自身が罪悪感を抱くこともある

こうした困難の背景には、脳の情報処理の特性があり、努力やしつけの問題ではありませ

生物・心理・社会 ― 三つの視点でとらえるADHD 生物(Biological)― 脳のネットワークの違い

ADHDでは、前頭前野(集中・計画)と線条体(報酬系)の働きのバランスに特徴があります。脳の「報酬系」が刺激に強く反応し、ドーパミンやノルアドレナリンの調整が不安定になります。

そのため、・興味があることには極端に集中できる(過集中)・興味のないことには集中が続かない

といった偏りが生まれます。これは意志ではなく、脳の情報処理のスタイルによるものです。

心理(Psychological)― 「わかっているのにできない」苦しさ

ADHDの子どもたちは、「自分が悪い」と思い込んでしまうことが多いです。何度も注意されるうちに、「また怒られる」「どうせ失敗する」と自己否定的な信念が強まります。

叱責よりも、行動の背景を理解し、仕組みで支えることが必要です。「集中が続かないからこそ、短時間で区切る」「忘れやすいから、視覚的にリスト化する」――そうした支援が心理的安心を生みます。

社会(Social)― 学校・社会の中で起こること

学校では、ADHDの子どもが「ルールを守れない」「空気が読めない」と見られがちです。

授業中の立ち歩き、提出忘れ、ミスの多さ。それは怠けではなく、注意の持続と実行機能の弱さによるものです。

特に、板書・作文・ノート取りなどの「書く作業」が苦手な場合、努力しても成果が見えにくく、学力が低く評価されがちです。

WISC-V(発達検査)でみるADHDの特徴  発達検査(WISC-V)では、ADHDの子どもに以下のような傾向が見られることが多いです。 指標 特徴 学習面への影響 言語理解(VCI) 会話力や語彙は比較的高い 話すのは得意だが、長い説明を聞き続けるのは苦手 視空間(VSI) 図形・位置関係の理解は得意 空間把握力はあるが、細部のミスが出やすい 流動性推論(FRI) パターン認識・推論に強み 抽象的思考はできるが、課題に集中が続かない ワーキングメモリ(WMI) 数字や情報を一時的に保持する力が弱い 「覚えておいて」が難しく、聞き漏らしが多い 処理速度(PSI) 作業のスピードが遅い傾向 テストや書字に時間がかかる/ケアレスミスが出やすい

このように、知的能力そのものは十分あっても、注意の持続・処理速度・記憶の一時保持の弱さが、学習上の困難につながることがあります。

DSM-5とICD-11による診断基準

ADHDは、DSM-5(米国精神医学会)とICD-11(世界保健機関)で以下のように定義されています。 ●DSM-5(2022) 不注意・多動性・衝動性のいずれかまたは両方の症状が12歳以前から持続し、社会的・学業的機能に支障をきたしている。 症状は少なくとも2つ以上の状況(例:家庭・学校)で認められる必要がある。   ●ICD-11(2023) 発達にそぐわない不注意・過活動・衝動性が持続的にみられ、学校・家庭・職場など複数の場面で機能障害をもたらしている。 神経発達症の一つとして分類。ADHDという名称をそのまま使用。   いずれの基準でも、「単に集中できない」だけではなく、 生活や学業に支障をきたすレベルで持続していることが診断の前提です。   また、発達検査だけで診断が確定するわけではありません。 臨床では、家庭・学校での行動観察面接による生活史の聴き取り 保護者・教師の評価質問票(例:Conners 3、ADHD-RS など)を総合して判断されます。

ADHDの服薬治療

薬物療法は、脳内の神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン)を調整し、集中・衝動性を安定させる目的で行われます。

代表的な薬剤:・メチルフェニデート(コンサータ):集中持続を助ける中枢刺激薬・アトモキセチン(ストラテラ):非刺激薬。不安や衝動性にも効果・グアンファシン(インチュニブ):落ち着き・睡眠リズムの改善・リスデキサンフェタミン(ビバンセ):朝の覚醒・持続的注意をサポート

薬の効果には個人差があり、医師の慎重な調整が必要です。「薬で性格を変える」のではなく、「本来の力を発揮しやすくする」ためのサポートと考えてください。

特性に合った支援と、早期支援の意義

ADHDの子どもは、環境が整えば力を発揮できます。

学校に求めたい支援

・座席は刺激の少ない前方・壁側へ・板書をプリントで補助、または写真撮影を許可・宿題は量を減らし、達成感を味わえる設計に・テストでは時間延長・口頭回答を検討・忘れ物防止のチェックリストやファイルの色分けを導入・教師間で共通理解をもち、「叱るより仕組みで支える」文化をつくる

家庭でできる工夫

・時間を「見える化」(タイマー・スケジュールボード)・成功体験を言葉で具体的にほめる・失敗しても、「どうしたらできるか」を一緒に考える

早期支援がもたらす長期的な効果

ADHDの支援は、早期に始めるほど、ソーシャルスキル(対人関係能力)と自己理解の発達が良好であることが研究で示されています。

早期に自分の特性を理解し、支援を受けながら成功体験を積むことで、・対人関係の衝突が減る・学習意欲が維持される・将来の進路選択や就職の幅が広がる・自分の「得意」と「苦手」を自覚した自己実現が可能になる

つまり、ADHDの支援は“治療”であると同時に、“成長支援”です。本人の人生の選択肢を広げるための、前向きな取り組みなのです。

発達の先にある希望 ― 成熟する脳

多動や衝動性は、脳の前頭前野が発達する20代にかけて徐々に落ち着きます。しかし、片付け・整理整頓・時間管理などの「実行機能の弱さ」は残る傾向があります。

成人後も、・スマホのリマインダーで時間を管理・チェックリスト・ToDoリストで可視化・物の定位置を決めるといった環境デザインの工夫が、一生の支えになります。

親の育て方の問題ではありません

ADHDは、親の接し方や性格で起こるものではありません。脳の働き方の個性です。

そして、この個性は支援によって「弱点」から「才能」へと変化します。創造的で、柔軟で、情熱的。そのエネルギーを社会で生かせるよう、私たち大人が仕組みで支えることが大切です。

今日のまなざし

「集中できない」は努力不足ではなく、脳の特性。叱るより、仕組みと理解で支えることが、子どもを伸ばす最良の方法です。

参考・参照

・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR・World Health Organization (2023).…

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不登校生に必要な、進路指導より重要なこと

不登校生に進路指導よりも必要なこと 進路指導とキャリアカウンセリングの違い

学校の進路指導とキャリアカウンセリングは明確に異なります。

学校の進路指導は受験指導の割合が多いです。今の成績で行ける学校はどこそこで、という話です。その後どういうライフプランがあるのか、そういうところまでは踏み込んで考えることは少ないです。

また学校で施されるキャリア教育は職業教育であって、厳密な意味でのキャリア教育でもありません。キャリアカウンセリングは生き方を考えるカウンセリングです。その中に、働き方、生活スタイル、などがあり、そこに必要な要素(勉強や資格、今しかできない経験など)を考えていくことになります。

 

自己啓発みたいに強烈でもありません

目標設定してそれに向けて頑張るという自己啓発ほど強烈でもありません。自己啓発の場合は、努力して今の自分を変えていこうという動きがあります。しかし、キャリアカウンセリングの場合は、目標は立てますが、その目標を自分に合わせて変えていきます。中学生や高校生のときに立てた目標通りに生きるわけでもありません。

 

  自分の将来を考えて、その結果、勉強するという行動が生まれる

自分の進路を考えることで、学校に行く行かないを越えて未来を描くことができます。そのプロセスに、勉強や受験、進路選択が乗っかってきます。

単に勉強しなさい、将来こまるから今やっておきなさい、というだけでは勉強しませんが、自分にとって生きる目的ができると勉強をします。

そこに向けてメンタル面を整えつつ方向付けをしていくのがキャリアカウンセリングです。

メンタルケアの先にある子どもたちの生き方に寄り添っていきたいと考えております。

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本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。

基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178

「集中できない子」は、努力が足りないわけではない

授業中に立ち歩く、話を最後まで聞けない、宿題を忘れる。注意されたことをその場で謝っても、翌日にはまた同じことをしてしまう。

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中のしにくさ(不注意)・落ち着きのなさ(多動性)・思いつくままに行動する(衝動性)という特徴を持つ、神経発達症(発達の特性)です。

ADHDの特徴と、「困り感」の実際

ADHDの子どもたちは、知的には平均的、場合によってはそれ以上の力を持ちながらも、「わかっているのにできない」ことで大きなストレスを抱えています。

本人の困り感

・授業で話を聞いていても、途中で頭が別のことを考え始めてしまう・宿題をやる気はあるのに、机につくまでに他のことに気を取られる・感情が急に高ぶって、後で「なんであんなこと言ったんだろう」と落ち込む・友達との会話で話を遮ってしまい、「うるさい」と言われる

本人は多くの場合、「やる気がない」と思われていることを苦しく感じています。

学校での困り感

・注意される回数が多く、教師からの評価が下がりやすい・授業中に立ち歩く・忘れ物が多いなど、集団のペースに合わない・テストではケアレスミスが多く、実力が正しく評価されない・叱責が続くことで、「自分はダメな子」という自己否定が強まる

家庭での困り感

・「何度言っても同じことを繰り返す」と親が疲弊する・宿題・片付け・時間管理などが日常的な衝突の原因になる・家族が緊張状態になり、親子関係が悪循環に陥る・兄弟姉妹との比較で、親自身が罪悪感を抱くこともある

こうした困難の背景には、脳の情報処理の特性があり、努力やしつけの問題ではありませ

生物・心理・社会 ― 三つの視点でとらえるADHD 生物(Biological)― 脳のネットワークの違い

ADHDでは、前頭前野(集中・計画)と線条体(報酬系)の働きのバランスに特徴があります。脳の「報酬系」が刺激に強く反応し、ドーパミンやノルアドレナリンの調整が不安定になります。

そのため、・興味があることには極端に集中できる(過集中)・興味のないことには集中が続かない

といった偏りが生まれます。これは意志ではなく、脳の情報処理のスタイルによるものです。

心理(Psychological)― 「わかっているのにできない」苦しさ

ADHDの子どもたちは、「自分が悪い」と思い込んでしまうことが多いです。何度も注意されるうちに、「また怒られる」「どうせ失敗する」と自己否定的な信念が強まります。

叱責よりも、行動の背景を理解し、仕組みで支えることが必要です。「集中が続かないからこそ、短時間で区切る」「忘れやすいから、視覚的にリスト化する」――そうした支援が心理的安心を生みます。

社会(Social)― 学校・社会の中で起こること

学校では、ADHDの子どもが「ルールを守れない」「空気が読めない」と見られがちです。

授業中の立ち歩き、提出忘れ、ミスの多さ。それは怠けではなく、注意の持続と実行機能の弱さによるものです。

特に、板書・作文・ノート取りなどの「書く作業」が苦手な場合、努力しても成果が見えにくく、学力が低く評価されがちです。

WISC-V(発達検査)でみるADHDの特徴  発達検査(WISC-V)では、ADHDの子どもに以下のような傾向が見られることが多いです。 指標 特徴 学習面への影響 言語理解(VCI) 会話力や語彙は比較的高い 話すのは得意だが、長い説明を聞き続けるのは苦手 視空間(VSI) 図形・位置関係の理解は得意 空間把握力はあるが、細部のミスが出やすい 流動性推論(FRI) パターン認識・推論に強み 抽象的思考はできるが、課題に集中が続かない ワーキングメモリ(WMI) 数字や情報を一時的に保持する力が弱い 「覚えておいて」が難しく、聞き漏らしが多い 処理速度(PSI) 作業のスピードが遅い傾向 テストや書字に時間がかかる/ケアレスミスが出やすい

このように、知的能力そのものは十分あっても、注意の持続・処理速度・記憶の一時保持の弱さが、学習上の困難につながることがあります。

DSM-5とICD-11による診断基準

ADHDは、DSM-5(米国精神医学会)とICD-11(世界保健機関)で以下のように定義されています。 ●DSM-5(2022) 不注意・多動性・衝動性のいずれかまたは両方の症状が12歳以前から持続し、社会的・学業的機能に支障をきたしている。 症状は少なくとも2つ以上の状況(例:家庭・学校)で認められる必要がある。   ●ICD-11(2023) 発達にそぐわない不注意・過活動・衝動性が持続的にみられ、学校・家庭・職場など複数の場面で機能障害をもたらしている。 神経発達症の一つとして分類。ADHDという名称をそのまま使用。   いずれの基準でも、「単に集中できない」だけではなく、 生活や学業に支障をきたすレベルで持続していることが診断の前提です。   また、発達検査だけで診断が確定するわけではありません。 臨床では、家庭・学校での行動観察面接による生活史の聴き取り 保護者・教師の評価質問票(例:Conners 3、ADHD-RS など)を総合して判断されます。

ADHDの服薬治療

薬物療法は、脳内の神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン)を調整し、集中・衝動性を安定させる目的で行われます。

代表的な薬剤:・メチルフェニデート(コンサータ):集中持続を助ける中枢刺激薬・アトモキセチン(ストラテラ):非刺激薬。不安や衝動性にも効果・グアンファシン(インチュニブ):落ち着き・睡眠リズムの改善・リスデキサンフェタミン(ビバンセ):朝の覚醒・持続的注意をサポート

薬の効果には個人差があり、医師の慎重な調整が必要です。「薬で性格を変える」のではなく、「本来の力を発揮しやすくする」ためのサポートと考えてください。

特性に合った支援と、早期支援の意義

ADHDの子どもは、環境が整えば力を発揮できます。

学校に求めたい支援

・座席は刺激の少ない前方・壁側へ・板書をプリントで補助、または写真撮影を許可・宿題は量を減らし、達成感を味わえる設計に・テストでは時間延長・口頭回答を検討・忘れ物防止のチェックリストやファイルの色分けを導入・教師間で共通理解をもち、「叱るより仕組みで支える」文化をつくる

家庭でできる工夫

・時間を「見える化」(タイマー・スケジュールボード)・成功体験を言葉で具体的にほめる・失敗しても、「どうしたらできるか」を一緒に考える

早期支援がもたらす長期的な効果

ADHDの支援は、早期に始めるほど、ソーシャルスキル(対人関係能力)と自己理解の発達が良好であることが研究で示されています。

早期に自分の特性を理解し、支援を受けながら成功体験を積むことで、・対人関係の衝突が減る・学習意欲が維持される・将来の進路選択や就職の幅が広がる・自分の「得意」と「苦手」を自覚した自己実現が可能になる

つまり、ADHDの支援は“治療”であると同時に、“成長支援”です。本人の人生の選択肢を広げるための、前向きな取り組みなのです。

発達の先にある希望 ― 成熟する脳

多動や衝動性は、脳の前頭前野が発達する20代にかけて徐々に落ち着きます。しかし、片付け・整理整頓・時間管理などの「実行機能の弱さ」は残る傾向があります。

成人後も、・スマホのリマインダーで時間を管理・チェックリスト・ToDoリストで可視化・物の定位置を決めるといった環境デザインの工夫が、一生の支えになります。

親の育て方の問題ではありません

ADHDは、親の接し方や性格で起こるものではありません。脳の働き方の個性です。

そして、この個性は支援によって「弱点」から「才能」へと変化します。創造的で、柔軟で、情熱的。そのエネルギーを社会で生かせるよう、私たち大人が仕組みで支えることが大切です。

今日のまなざし

「集中できない」は努力不足ではなく、脳の特性。叱るより、仕組みと理解で支えることが、子どもを伸ばす最良の方法です。

参考・参照

・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR・World Health Organization (2023). ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics・厚生労働省「注意欠如・多動症(ADHD)に関する実態調査」(2020)・日本児童青年精神医学会『ADHDの診断と治療指針 第2版』(2021)・国立精神・神経医療研究センター「発達障害情報・支援センター」

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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このコラムは、不登校や引きこもりのお子さんをもつ親御さんのためにお届けしています。 お子さんの状況や支援の方向性など、メールでのご相談を受け付けています。 ご質問には順次お返事しております。

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不登校のお子さんこそ必要な必要なキャリアカウンセリング

不登校のお子さんにメンタルケア以上に必要なキャリアカウンセリング 不登校カウンセリングの最後に出てくる問題

不登校のお子さんに直接的なカウンセリングをしていると

必ず出てくる問題があります。それは進路の問題です。

これはある程度時間をかけて関わったお子さんであれば、誰でもがこの問題にたどり着きます。

「自分は学校に行っていないから将来は何もできない」「一生働くことはできないと思う」「自分なんかが進学できる学校は大したことがない。どうせバカにされる」「私はどうやって生きて行けばいいんですか?」

とかを尋ねられます。

小学校の高学年くらいからこういう問いにぶつかっています。この背後にある気持ちである、焦りや不安をケアすることはメンタルケア的なカウンセリングでできますが、「際にどういう進路をとるか、どう考えたらよいか?」ということはメンタルのカウンセリングだけでは、ケアできません。

不登校のお子さんこそキャリアカウンセリングが必要

私は不登校のお子さんこそ、キャリアカウンセリングが必要だと考えています。実際的にそして、具体的に進路を一緒に考えていく存在が必要です。私は数年前にキャリアコンサルタントという国家資格を取得しました。これは日本で唯一、キャリアカウンセリングのプロフェッショナルの資格です。

キャリアコンサルタントの学びは私自身、非常に刺激の多いものでした。そしてこの時の学びが、今、子どもたちの進路を考える上で非常に役立ちます。キャリアカウンセリングをすることで、進路を具体的に考えていくことができます。そしてそのための情報も一緒に探すことができます。

どんなお子さんにも活かせる資質がある!

キャリアカウンセリングをしていて感じることは、不登校している、していないにかかわらず、そして、大人もこどもも同じで、自分自身を過小評価していることです。この過小評価が、進学、就職、転職を難しくしています。

仕事は、学校の勉強と違って、あれもこれもやらなくて良いです。運動が苦手ならそれをやらないでいいし、数学が苦手ならその分野に進まなければいいわけです。

一方で、絵が好きならそれを活かせる進路を取ればよいし、食べるのが好きなら、食べることが仕事につながる進路を考えれば良いのです。どんなお子さんにも必ず、将来に活かせる資質が備わっています。それが今見えてない、または見えているけどあんまりうまく機能していないだけなのです。

そこを見いだしていくことが、結果として、不安や焦りを払しょくし、進路に向かって歩む力の源になると考えています。

私の目指すところ

私が目指すところは、不登校していようとしていまいと、将来に希望をもって生きるお子さんを一人でも増やしていくことです。心の調子を整えて、さらにその先の人生も一緒に考えることで、可能になると確信しております。

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不登校の解決に向けたメルマガを読む 不登校やキャリア教育に関するコラム 集中できない子 ― ADHDと学びの工夫 集中できない子 ― ADHDと学びの工夫 (生物心理社会モデルでみる不登校の背景⑤/シリーズ記事)

本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。

基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178

「集中できない子」は、努力が足りないわけではない

授業中に立ち歩く、話を最後まで聞けない、宿題を忘れる。注意されたことをその場で謝っても、翌日にはまた同じことをしてしまう。

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中のしにくさ(不注意)・落ち着きのなさ(多動性)・思いつくままに行動する(衝動性)という特徴を持つ、神経発達症(発達の特性)です。

ADHDの特徴と、「困り感」の実際

ADHDの子どもたちは、知的には平均的、場合によってはそれ以上の力を持ちながらも、「わかっているのにできない」ことで大きなストレスを抱えています。

本人の困り感

・授業で話を聞いていても、途中で頭が別のことを考え始めてしまう・宿題をやる気はあるのに、机につくまでに他のことに気を取られる・感情が急に高ぶって、後で「なんであんなこと言ったんだろう」と落ち込む・友達との会話で話を遮ってしまい、「うるさい」と言われる

本人は多くの場合、「やる気がない」と思われていることを苦しく感じています。

学校での困り感

・注意される回数が多く、教師からの評価が下がりやすい・授業中に立ち歩く・忘れ物が多いなど、集団のペースに合わない・テストではケアレスミスが多く、実力が正しく評価されない・叱責が続くことで、「自分はダメな子」という自己否定が強まる

家庭での困り感

・「何度言っても同じことを繰り返す」と親が疲弊する・宿題・片付け・時間管理などが日常的な衝突の原因になる・家族が緊張状態になり、親子関係が悪循環に陥る・兄弟姉妹との比較で、親自身が罪悪感を抱くこともある

こうした困難の背景には、脳の情報処理の特性があり、努力やしつけの問題ではありませ

生物・心理・社会 ― 三つの視点でとらえるADHD 生物(Biological)― 脳のネットワークの違い

ADHDでは、前頭前野(集中・計画)と線条体(報酬系)の働きのバランスに特徴があります。脳の「報酬系」が刺激に強く反応し、ドーパミンやノルアドレナリンの調整が不安定になります。

そのため、・興味があることには極端に集中できる(過集中)・興味のないことには集中が続かない

といった偏りが生まれます。これは意志ではなく、脳の情報処理のスタイルによるものです。

心理(Psychological)― 「わかっているのにできない」苦しさ

ADHDの子どもたちは、「自分が悪い」と思い込んでしまうことが多いです。何度も注意されるうちに、「また怒られる」「どうせ失敗する」と自己否定的な信念が強まります。

叱責よりも、行動の背景を理解し、仕組みで支えることが必要です。「集中が続かないからこそ、短時間で区切る」「忘れやすいから、視覚的にリスト化する」――そうした支援が心理的安心を生みます。

社会(Social)― 学校・社会の中で起こること

学校では、ADHDの子どもが「ルールを守れない」「空気が読めない」と見られがちです。

授業中の立ち歩き、提出忘れ、ミスの多さ。それは怠けではなく、注意の持続と実行機能の弱さによるものです。

特に、板書・作文・ノート取りなどの「書く作業」が苦手な場合、努力しても成果が見えにくく、学力が低く評価されがちです。

WISC-V(発達検査)でみるADHDの特徴  発達検査(WISC-V)では、ADHDの子どもに以下のような傾向が見られることが多いです。 指標 特徴 学習面への影響 言語理解(VCI) 会話力や語彙は比較的高い 話すのは得意だが、長い説明を聞き続けるのは苦手 視空間(VSI) 図形・位置関係の理解は得意 空間把握力はあるが、細部のミスが出やすい 流動性推論(FRI) パターン認識・推論に強み 抽象的思考はできるが、課題に集中が続かない ワーキングメモリ(WMI) 数字や情報を一時的に保持する力が弱い 「覚えておいて」が難しく、聞き漏らしが多い 処理速度(PSI) 作業のスピードが遅い傾向 テストや書字に時間がかかる/ケアレスミスが出やすい

このように、知的能力そのものは十分あっても、注意の持続・処理速度・記憶の一時保持の弱さが、学習上の困難につながることがあります。

DSM-5とICD-11による診断基準

ADHDは、DSM-5(米国精神医学会)とICD-11(世界保健機関)で以下のように定義されています。 ●DSM-5(2022) 不注意・多動性・衝動性のいずれかまたは両方の症状が12歳以前から持続し、社会的・学業的機能に支障をきたしている。 症状は少なくとも2つ以上の状況(例:家庭・学校)で認められる必要がある。   ●ICD-11(2023) 発達にそぐわない不注意・過活動・衝動性が持続的にみられ、学校・家庭・職場など複数の場面で機能障害をもたらしている。 神経発達症の一つとして分類。ADHDという名称をそのまま使用。   いずれの基準でも、「単に集中できない」だけではなく、 生活や学業に支障をきたすレベルで持続していることが診断の前提です。   また、発達検査だけで診断が確定するわけではありません。 臨床では、家庭・学校での行動観察面接による生活史の聴き取り 保護者・教師の評価質問票(例:Conners 3、ADHD-RS など)を総合して判断されます。

ADHDの服薬治療

薬物療法は、脳内の神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン)を調整し、集中・衝動性を安定させる目的で行われます。

代表的な薬剤:・メチルフェニデート(コンサータ):集中持続を助ける中枢刺激薬・アトモキセチン(ストラテラ):非刺激薬。不安や衝動性にも効果・グアンファシン(インチュニブ):落ち着き・睡眠リズムの改善・リスデキサンフェタミン(ビバンセ):朝の覚醒・持続的注意をサポート

薬の効果には個人差があり、医師の慎重な調整が必要です。「薬で性格を変える」のではなく、「本来の力を発揮しやすくする」ためのサポートと考えてください。

特性に合った支援と、早期支援の意義

ADHDの子どもは、環境が整えば力を発揮できます。

学校に求めたい支援

・座席は刺激の少ない前方・壁側へ・板書をプリントで補助、または写真撮影を許可・宿題は量を減らし、達成感を味わえる設計に・テストでは時間延長・口頭回答を検討・忘れ物防止のチェックリストやファイルの色分けを導入・教師間で共通理解をもち、「叱るより仕組みで支える」文化をつくる

家庭でできる工夫

・時間を「見える化」(タイマー・スケジュールボード)・成功体験を言葉で具体的にほめる・失敗しても、「どうしたらできるか」を一緒に考える

早期支援がもたらす長期的な効果

ADHDの支援は、早期に始めるほど、ソーシャルスキル(対人関係能力)と自己理解の発達が良好であることが研究で示されています。

早期に自分の特性を理解し、支援を受けながら成功体験を積むことで、・対人関係の衝突が減る・学習意欲が維持される・将来の進路選択や就職の幅が広がる・自分の「得意」と「苦手」を自覚した自己実現が可能になる

つまり、ADHDの支援は“治療”であると同時に、“成長支援”です。本人の人生の選択肢を広げるための、前向きな取り組みなのです。

発達の先にある希望 ― 成熟する脳

多動や衝動性は、脳の前頭前野が発達する20代にかけて徐々に落ち着きます。しかし、片付け・整理整頓・時間管理などの「実行機能の弱さ」は残る傾向があります。

成人後も、・スマホのリマインダーで時間を管理・チェックリスト・ToDoリストで可視化・物の定位置を決めるといった環境デザインの工夫が、一生の支えになります。

親の育て方の問題ではありません

ADHDは、親の接し方や性格で起こるものではありません。脳の働き方の個性です。

そして、この個性は支援によって「弱点」から「才能」へと変化します。創造的で、柔軟で、情熱的。そのエネルギーを社会で生かせるよう、私たち大人が仕組みで支えることが大切です。

今日のまなざし

「集中できない」は努力不足ではなく、脳の特性。叱るより、仕組みと理解で支えることが、子どもを伸ばす最良の方法です。

参考・参照

・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR・World Health Organization (2023). ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics・厚生労働省「注意欠如・多動症(ADHD)に関する実態調査」(2020)・日本児童青年精神医学会『ADHDの診断と治療指針 第2版』(2021)・国立精神・神経医療研究センター「発達障害情報・支援センター」

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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