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沈黙もまた、親子の大切な対話のかたち──子どもが話さない時間にできること

沈黙もまた、親子の大切な対話のかたち──子どもが話さない時間にできること

子どもが学校から帰ってきて、「おかえり」と声をかける。でも返ってくるのは、目も合わせずにボソッと「あー…」。表情が暗くて気になり、「何かあったの?」と聞いても、「別に」。それでもやっぱり心配になって、「なんか、表情が険しいけど…」と重ねて聞くと、「うるさいな!」と強い口調で返されてしまう──。

こんなとき、親の胸の中には不安が広がります。「私、嫌われたのかな」「何か地雷を踏んじゃったのかな」と戸惑ってしまう方も多いでしょう。

でも実は、子ども自身も、自分の中にあるモヤモヤをまだうまく言葉にできていないことがあります。学校でのちょっとしたストレス、人間関係の複雑さ、なんとなくうまくいかなかった一日。それらを一から説明するのも面倒で、気づけば感情だけが先に溢れてしまう──その矛先が、いちばん近くて安心できる親に向いてしまうのです。

決して、親が嫌いになったわけではありません。むしろ、“話せない気持ちごと受けとめてくれる存在”だと信じているからこそ、不機嫌や反発という形で感情が出てくるのかもしれません。今回は、そんな沈黙や反発の奥にある子どもの気持ちに、親としてどう寄り添えばいいのかを、一緒に考えてみたいと思います。

子どもとの沈黙が不安に感じるとき

言葉が返ってこない、目も合わせてくれない、なんとなく不機嫌。そんな子どもの態度に、親は「今、私どう接するのが正解なんだろう?」と迷ってしまうことがあります。

特に、学校で何を感じてきたかなんて、親には見えません。でも、子どもにとっては「いちいち全部説明するのも面倒」「細かいことを話す気力もない」そんな気持ちで口数が減っていることもあります。

親に悪気があるわけでも、子どもに敵意があるわけでもないのに、「話す気になれない空気」と「心配して深く聞く空気」がぶつかってしまうこともあるのです。

沈黙の中にも、関係はちゃんと育っている

思春期や心が揺れているとき、子どもは「話したいけど、うまく言えない」「伝えたいけど、まとまらない」――そんなもどかしさを抱えていることがあります。

親が無理に引き出そうとすると、かえって子どもは心を閉ざしてしまうことも。でも、沈黙は関係が壊れている証拠ではありません。むしろ、「今は話せないけど、ここにいてくれることが安心」という、信頼の表れでもあるのです。

話すことより、「話せる空気」をつくる

親子のコミュニケーションは、言葉のキャッチボールだけではありません。大切なのは、**「何を言うか」より「どんな空気でそこにいるか」**です。

話しかけても反応がなくても、そばで静かに一緒にいる。ごはんを並べて「おかえり」とだけ言う。そんなふうに、**沈黙に寄り添う“まなざし”**が、子どもにとって何よりも安心になることがあります。

沈黙を信じられる親でいるために

子どもの沈黙に耐えるには、親にも心の余裕が必要です。「今は話せないときなんだ」「言葉にならない気持ちがあるんだ」と思える安心感。それは、親自身が自分の不安にも優しくできているときに生まれます。

「話してくれない=うまくいっていない」と決めつけず、「きっと話してくれる時が来る」と信じて、日常を丁寧に過ごしていく。その姿勢こそが、子どもとの信頼をゆっくりと育んでいきます。

「沈黙もまた、親子の大切な対話のかたち。」― トマス・ゴードン(臨床心理学者、『親業』より)

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

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「空気が読めない」と言われる子がいます。集団の中で浮いてしまったり、場の雰囲気が変わっても気づかない。でもその背景には、「感じ方がちがう」世界の存在があります。

ASD(自閉スペクトラム症)は、理解力や努力の問題ではなく、情報の受け取り方・感じ方・構造のとらえ方が異なる発達特性。今回は、感覚のちがいと認知のスタイル、そして支援の考え方を、生物心理社会モデルを軸に整理していきます。

🔗 参考:シリーズ第1回「子どもの“しんどさ”をどう理解するか」https://visionary-career-academy.com/archives/4178

ASDとは何か ― 世界の感じ方が違う子どもたち

ASDは Autism Spectrum Disorder の略で、日本語では自閉スペクトラム症と呼ばれます。「スペクトラム(spectrum)」とは、光のように連続した幅のある性質という意味。その名の通り、ASDには重い・軽いといった線引きではなく、**社会性・コミュニケーション・感覚処理などの特性が人によって異なる“グラデーション”**があります。

ASDの子どもたちは、他者の気持ちや意図、文脈を読み取る脳の働き方が独特です。それは「理解力の欠如」ではなく、「認知スタイルのちがい」。世界を構造的・規則的にとらえる一方で、人の心やあいまいな社会ルールを把握することが難しいのです。

感覚過敏の世界 ― 五感のチューニングが異なる

ASDの子どもたちは、私たちが当たり前に受け取っている感覚情報を、まったく違う強さで感じています。

聴覚過敏:教室のざわめき、蛍光灯の「ジーッ」という音、鉛筆のカリカリ音などが、痛いほど響く。

視覚過敏:蛍光灯の光や人の動きが刺激になり、目をそらす。

触覚過敏:洋服のタグや靴下のゴム、人との接触が苦痛に感じられる。

嗅覚・味覚のこだわり:におい・食感・温度への過敏さから偏食が起こることも。

こうした過敏さは「わがまま」ではなく、脳が感覚刺激をうまくフィルタリングできないために起こります。外界の情報が“全開のボリューム”で流れ込んでくるため、本人にとって世界はしばしば「うるさい」「まぶしい」「痛い」場所なのです。

💡 支援のヒント「静かな場所で話す」「光をやわらげる」「触れずに声で伝える」――環境を一段階“静かにする”だけでも、本人の安心感は大きく変わります。

認知特性とWISC-Ⅴで見えるASDの特徴

発達検査(WISC-Ⅴ:Wechsler Intelligence Scale for Children – Fifth Edition)では、ASDの子どもたちの“感じ方のちがい”が、認知プロファイルとして明確に表れます。

指標 内容 ASDで見られやすい傾向 言語理解(VCI) 言葉の意味理解・常識・表現力 語彙は豊富でも、比喩・冗談・曖昧な表現の理解が苦手 視覚的推論(VSI) 図形・パターンの処理 強み。構造や規則を見抜く力が高い ワーキングメモリ(WMI) 聴覚的短期記憶・思考保持 聴覚過敏などで集中が途切れやすい 処理速度(PSI) 単純作業のスピード 感覚刺激への敏感さ・慎重さから低く出やすい 流動的推論(FRI) 新しい課題への柔軟対応 パターンの理解は得意だが、曖昧な課題は苦手

ASDの子は、構造化された課題に強く、曖昧な状況に弱いという特徴があります。この特性が、学校生活や人間関係で「空気が読めない」「急な変化に弱い」と見られる背景にあります。

🔍 ADHDとの比較ADHDでは「注意の持続」や「衝動の制御」の難しさが中心で、WISCではワーキングメモリや処理速度が低めに出やすい。ASDでは「意味づけ・構造化」の弱さが中心という違いがあります。

生物・心理・社会モデルでみるASD 生物的側面

脳の情報処理ネットワーク(前頭葉―側頭葉―小脳連関など)に特性があり、光・音・触覚への感覚過敏・鈍麻も見られます。こうした感覚処理の違いが、日常の不安や混乱のもとになることがあります。

心理的側面

ASDの発達は、「認知発達(考える力)」と「関係発達(他者とつながる力)」が非対称に進みます。物事のルールや法則を理解する力は高いのに、人との関係づくり(社会的参照・共同注意・模倣)には時間がかかるのです。

社会的側面

ASDの子は、社会の“暗黙の了解”や“空気”といった非言語的な文脈を読み取るのが苦手です。社会の側が「わかりやすい構造」を示してあげることが、適応の第一歩になります。

幼児期に現れる兆し ― 社会的参照の困難

ASDの特徴は、幼児期から現れます。赤ちゃんは通常、親の表情や声を“参照”して行動を決めます(社会的参照)。しかしASDの子は、その参照がうまく働きません。

親の表情を見ない

名前を呼んでも反応が鈍い

一人遊びが多い

こうした様子が、3歳児健診などで指摘されることもあります。「関係発達の遅れ」が、後のコミュニケーションの土台に影響していきます。

構造を愛する ― ルーティンとこだわりの世界

ASDの子どもたちは、世界を“変化”ではなく“規則”で理解します。朝の支度の順番、登校ルート、食事の配置――その子なりの“ルーティン”があり、崩れると大きなストレスになります。

💡 ルーティンは安心の構造ASDの子にとって、こだわりや決まりごとは安心の拠り所。「なくす」ではなく、「理解し、活かす」視点が大切です。

また、規則性への敏感さがあるため、鉄道・時刻表・カレンダー・数字・天気など、明確なパターンを持つものを好む傾向があります。これは「構造を通して世界を理解したい」という自然な表れです。

男性に多い理由とカモフラージュASD

ASDは、男性が女性の約4倍といわれます。生物学的には胎児期のテストステロン量が社会的認知の発達に影響しているという説があり、社会的には女子が模倣・観察によって特性を隠しやすいことも関係しています。

「カモフラージュASD」と呼ばれるタイプは、周囲に合わせようとしすぎて思春期以降にうつや不安症を併発することもあります。

ADHDとの違い ― 「調整」と「構造」 観点 ADHD ASD 主な困難 注意・感情の調整 状況の構造理解 困りごとの原因 「わかっていても抑えられない」 「何が起きているのかわからない」 支援の方向性 刺激を減らす 環境を明確にし見通しを与える

ADHDでは環境の刺激を調整し、ASDでは環境の構造を明示することが支援の鍵になります。

支援のキーワード ― 「見通し」と「安心」

ASD支援の本質は、「次に何が起こるか」がわかること。予測可能な環境が、最大の安心を生みます。

スケジュールを見える化する

状況の変化を事前に予告する

ルールや手順を言語化・明文化する

🧩 柔軟性は“学ぶ”もの安心できる構造の中で、少しずつ変化に慣れていく――それがASD支援の第一歩です。

家庭でできるASD支援のポイント

説明は具体的に、順序立てて 「ちゃんとして」ではなく、「まず〇〇して、次に〇〇してね」と段階を示す。

感情ではなく構造で伝える 「どうしてそんなことするの!」ではなく、「それをすると〇〇になるよ」と結果で伝える。

変化を予告する 「明日は時間割が変わるよ」「お客さんが来るよ」と事前に知らせて安心をつくる。

まとめ ― 「空気を翻訳する社会」へ

ASDの子どもたちは、「空気を読まない」のではなく、**“空気があいまいすぎて読み取れない”**だけ。

社会の側が「空気をわかりやすく伝える」工夫をすれば、彼らは自分の力を安心して発揮できます。

🌱 ASD支援とは、「空気を読む力」を求めるのではなく、「空気を翻訳する力」を社会全体で育てること。

参考資料・引用

American Psychiatric Association (2022).……

沈黙もまた、親子の大切な対話のかたち──子どもが話さない時間にできること Read More »

テストの後、子どもが本当に求めている“ひと言”とは?

テストの後、子どもが本当に求めている“ひと言”とは?

子どもが返却されたテストを持ってきました。そこで、点数を見て「で、平均は?」と聞くのは、何気ない一言。でもその瞬間、子どもは「また比べられた」と感じているかもしれません。相対評価と絶対評価――その違いが、子どもの心の伸びしろを左右します。

吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

1.「比べられた」と感じた瞬間、心は閉じる

定期考査の答案が返ってきたとき、「で、平均点は?」と聞いたことはありませんか?親にとっては現状を知るための情報収集のつもりでも、子どもにとっては「誰かと比べられている」と受け取られることがあります。実はこのひと言が、子どものやる気や自尊感情を大きく左右します。

特に、学校に行きづらさを抱える子どもや、日々不安と戦っている子にとって、「また人と比べられた」「自分はまだダメなんだ」という感覚は、次の挑戦を阻む原因になります。

2. 相対評価と絶対評価のちがい

学校のテストは多くの場合「相対評価」の仕組みを前提としています。つまり、「周囲と比べてどの位置にいるか」で評価が下される。しかし、心の成長や自己肯定感は、「前の自分と比べてどうだったか」という「絶対評価」の視点で育てる必要があります。

たとえ点数が低くても、前回よりも勉強時間が増えていた、最後まで解き切った――そうした変化に気づいて言葉にしてあげることで、子どもは「できたこと」に目を向けられるようになります。

3. 「私はこう感じたよ」と伝え

「前より説明の答え方が丁寧だね」「ここ、がんばって覚えたんだね。私、うれしいな」評価ではなく観察と感想を伝える「私メッセージ」は、子どもにプレッシャーを与えません。比べることより、寄り添うこと。これが、子どもを“次へ”と向かわせるエネルギーになります。点数は数字。でも、子どもの内面の変化は数字では測れません。比べるよりも、「見ていてくれる」「受けとめてくれる」親のまなざしが、子どもを成長へと向かわせます。絶対評価で見守る。それが、親子の信頼を深めるコミュニケーションの第一歩です。

「比較は喜びの終わりであり、成長の妨げでもある。」― カール・ロジャーズ(心理学者)

文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。

.cta-buttons { display: flex; flex-wrap: wrap; justify-content: center; gap: 16px; margin-top: 32px; } .cta-button { background-color: #f98c5f; color: #fff; padding: 12px 24px; border-radius: 30px; text-decoration: none; font-weight: bold; transition: 0.3s; } .cta-button:hover { background-color: #e67646; } .cta-button.secondary { background-color: #eee; color: #333; } 無料相談してみる メルマガを受け取る こちらの記事もおすすめです 空気が読めない子 ― ASD(自閉スペクトラム)の理解 2025年11月24日 コメントはまだありません 感じ方がちがう子 ― ASD(自閉スペクトラム症)の世界を知る (シリーズ:子どもの「しんどさ」を生物心理社会モデルで理解する 第6回) 感覚過敏/コミュニケーションのズレ

「空気が読めない」と言われる子がいます。集団の中で浮いてしまったり、場の雰囲気が変わっても気づかない。でもその背景には、「感じ方がちがう」世界の存在があります。

ASD(自閉スペクトラム症)は、理解力や努力の問題ではなく、情報の受け取り方・感じ方・構造のとらえ方が異なる発達特性。今回は、感覚のちがいと認知のスタイル、そして支援の考え方を、生物心理社会モデルを軸に整理していきます。

🔗 参考:シリーズ第1回「子どもの“しんどさ”をどう理解するか」https://visionary-career-academy.com/archives/4178

ASDとは何か ― 世界の感じ方が違う子どもたち

ASDは Autism Spectrum Disorder の略で、日本語では自閉スペクトラム症と呼ばれます。「スペクトラム(spectrum)」とは、光のように連続した幅のある性質という意味。その名の通り、ASDには重い・軽いといった線引きではなく、**社会性・コミュニケーション・感覚処理などの特性が人によって異なる“グラデーション”**があります。

ASDの子どもたちは、他者の気持ちや意図、文脈を読み取る脳の働き方が独特です。それは「理解力の欠如」ではなく、「認知スタイルのちがい」。世界を構造的・規則的にとらえる一方で、人の心やあいまいな社会ルールを把握することが難しいのです。

感覚過敏の世界 ― 五感のチューニングが異なる

ASDの子どもたちは、私たちが当たり前に受け取っている感覚情報を、まったく違う強さで感じています。

聴覚過敏:教室のざわめき、蛍光灯の「ジーッ」という音、鉛筆のカリカリ音などが、痛いほど響く。

視覚過敏:蛍光灯の光や人の動きが刺激になり、目をそらす。

触覚過敏:洋服のタグや靴下のゴム、人との接触が苦痛に感じられる。

嗅覚・味覚のこだわり:におい・食感・温度への過敏さから偏食が起こることも。

こうした過敏さは「わがまま」ではなく、脳が感覚刺激をうまくフィルタリングできないために起こります。外界の情報が“全開のボリューム”で流れ込んでくるため、本人にとって世界はしばしば「うるさい」「まぶしい」「痛い」場所なのです。

💡 支援のヒント「静かな場所で話す」「光をやわらげる」「触れずに声で伝える」――環境を一段階“静かにする”だけでも、本人の安心感は大きく変わります。

認知特性とWISC-Ⅴで見えるASDの特徴

発達検査(WISC-Ⅴ:Wechsler Intelligence Scale for Children – Fifth Edition)では、ASDの子どもたちの“感じ方のちがい”が、認知プロファイルとして明確に表れます。

指標 内容 ASDで見られやすい傾向 言語理解(VCI) 言葉の意味理解・常識・表現力 語彙は豊富でも、比喩・冗談・曖昧な表現の理解が苦手 視覚的推論(VSI) 図形・パターンの処理 強み。構造や規則を見抜く力が高い ワーキングメモリ(WMI) 聴覚的短期記憶・思考保持 聴覚過敏などで集中が途切れやすい 処理速度(PSI) 単純作業のスピード 感覚刺激への敏感さ・慎重さから低く出やすい 流動的推論(FRI) 新しい課題への柔軟対応 パターンの理解は得意だが、曖昧な課題は苦手

ASDの子は、構造化された課題に強く、曖昧な状況に弱いという特徴があります。この特性が、学校生活や人間関係で「空気が読めない」「急な変化に弱い」と見られる背景にあります。

🔍 ADHDとの比較ADHDでは「注意の持続」や「衝動の制御」の難しさが中心で、WISCではワーキングメモリや処理速度が低めに出やすい。ASDでは「意味づけ・構造化」の弱さが中心という違いがあります。

生物・心理・社会モデルでみるASD 生物的側面

脳の情報処理ネットワーク(前頭葉―側頭葉―小脳連関など)に特性があり、光・音・触覚への感覚過敏・鈍麻も見られます。こうした感覚処理の違いが、日常の不安や混乱のもとになることがあります。

心理的側面

ASDの発達は、「認知発達(考える力)」と「関係発達(他者とつながる力)」が非対称に進みます。物事のルールや法則を理解する力は高いのに、人との関係づくり(社会的参照・共同注意・模倣)には時間がかかるのです。

社会的側面

ASDの子は、社会の“暗黙の了解”や“空気”といった非言語的な文脈を読み取るのが苦手です。社会の側が「わかりやすい構造」を示してあげることが、適応の第一歩になります。

幼児期に現れる兆し ― 社会的参照の困難

ASDの特徴は、幼児期から現れます。赤ちゃんは通常、親の表情や声を“参照”して行動を決めます(社会的参照)。しかしASDの子は、その参照がうまく働きません。

親の表情を見ない

名前を呼んでも反応が鈍い

一人遊びが多い

こうした様子が、3歳児健診などで指摘されることもあります。「関係発達の遅れ」が、後のコミュニケーションの土台に影響していきます。

構造を愛する ― ルーティンとこだわりの世界

ASDの子どもたちは、世界を“変化”ではなく“規則”で理解します。朝の支度の順番、登校ルート、食事の配置――その子なりの“ルーティン”があり、崩れると大きなストレスになります。

💡 ルーティンは安心の構造ASDの子にとって、こだわりや決まりごとは安心の拠り所。「なくす」ではなく、「理解し、活かす」視点が大切です。

また、規則性への敏感さがあるため、鉄道・時刻表・カレンダー・数字・天気など、明確なパターンを持つものを好む傾向があります。これは「構造を通して世界を理解したい」という自然な表れです。

男性に多い理由とカモフラージュASD

ASDは、男性が女性の約4倍といわれます。生物学的には胎児期のテストステロン量が社会的認知の発達に影響しているという説があり、社会的には女子が模倣・観察によって特性を隠しやすいことも関係しています。

「カモフラージュASD」と呼ばれるタイプは、周囲に合わせようとしすぎて思春期以降にうつや不安症を併発することもあります。

ADHDとの違い ― 「調整」と「構造」 観点 ADHD ASD 主な困難 注意・感情の調整 状況の構造理解 困りごとの原因 「わかっていても抑えられない」 「何が起きているのかわからない」 支援の方向性 刺激を減らす 環境を明確にし見通しを与える

ADHDでは環境の刺激を調整し、ASDでは環境の構造を明示することが支援の鍵になります。

支援のキーワード ― 「見通し」と「安心」

ASD支援の本質は、「次に何が起こるか」がわかること。予測可能な環境が、最大の安心を生みます。

スケジュールを見える化する

状況の変化を事前に予告する

ルールや手順を言語化・明文化する

🧩 柔軟性は“学ぶ”もの安心できる構造の中で、少しずつ変化に慣れていく――それがASD支援の第一歩です。

家庭でできるASD支援のポイント

説明は具体的に、順序立てて 「ちゃんとして」ではなく、「まず〇〇して、次に〇〇してね」と段階を示す。

感情ではなく構造で伝える 「どうしてそんなことするの!」ではなく、「それをすると〇〇になるよ」と結果で伝える。

変化を予告する 「明日は時間割が変わるよ」「お客さんが来るよ」と事前に知らせて安心をつくる。

まとめ ― 「空気を翻訳する社会」へ

ASDの子どもたちは、「空気を読まない」のではなく、**“空気があいまいすぎて読み取れない”**だけ。

社会の側が「空気をわかりやすく伝える」工夫をすれば、彼らは自分の力を安心して発揮できます。

🌱 ASD支援とは、「空気を読む力」を求めるのではなく、「空気を翻訳する力」を社会全体で育てること。

参考資料・引用

American Psychiatric Association (2022).……

テストの後、子どもが本当に求めている“ひと言”とは? Read More »

思春期世代との親子のコミュニケーションが難しくなるのはなぜ?

思春期世代との親子のコミュニケーションが難しくなるのはなぜ? 「息子が何を考えているかわかりません・・・」

不登校のお子さんとのコミュニケーションに悩むご相談をよく受けます。あるご家庭の話です。

家の中にいるけど家族と一緒にいるのを拒むようで、家族が寝静まってから、台所で何かを食べていたり、一方で家族がリビングにいると絶対に部屋から出てこない、ということもあります。「ごはんできたよ」とか「ちょっと出かけてくるね」という言葉がけでも、返事が返ってくれば良いほうで無反応です。しかし、自分が欲しいゲームを買ってほしいとか、見たいテレビを録画しておけなど、要求だけはしてきます。食べたいお菓子やジュースがないと「なんでないんだ!」と大声で文句を言われたこともある、ということです。息子が何を考えているかわかりません。学校の話をすると、特に不機嫌になります。「うるさい」とか「学校なんかどうでもいい」というのです。

放っておいたらおいたで不機嫌になるし、言葉をかけても反応が今一つ。そして自分の要求だけは求めてくるという状況に、どうコミュニケーションをとってよいかを悩まれているというのです。今回のご相談にはないですが、うそをついたり、隠し事をしたり、することもあります。思春期世代のコミュニケーションはこれまでのコミュニが通じなくなる時期でもあります。そこでは親子の関係性を再構築する必要があります。

思春期世代のコミュニケーションが難しい理由

思春期世代の頭の中は混乱しているという前提にしておくのがよいと思います。これまで直感的にとらえていたもの、うのみにしてきたものが「正しいのか?」という疑いを持つようになります。これが幼少期との違いです。しかも、深い内省ができるようになるので、自分自身を知ることと同時に、自分はこういう人間であるという枠組みもできてきます。自己認識(セルフイメージ)の変容が起きているのです。単純化すると、幼い自分と大人になろうとする自分の対立が起きており混乱をします。さらには心身の急激な変化がおこり、自分のアイデンティティをいやでも意識するようになります。レフ・ヴィゴツキーは思春期の思考の変化について「思考形式の変化を前提とする必要がある」と述べています。つまり今まで同じように接していても相手(子ども)の思考が変わってきているので、親の言い分が通じなくなる、またはこれまでと同じように受け止めてもらえなくなる、ということが起きてくるのです。

これは子ども自身が意識するしないにかかわらず起きてきていることです。「自分でもよくわからない」というのが実際の子どもの声としてもあります。自分が何を考えているか、物事をどうとらえているのかは子ども自身もわかっていないところがあるのです。子どもと大人を行ったり来たりしながら、混乱しているのが思春期です。

接し方の心構えを変えていく

子どもの思考形式が変容している以上、接し方を変えていくことが大切になります。接し方を接するといっても、日々、かける言葉を一言一句変える必要はありません。子どもさんに接する態度を「子ども」として接する場面と、一人の「大人」として接する場面を作ることです。

「子ども」として接する場面は子どもが「甘え」を示してきた時です。何か要求してきたり、わがままを言ってきたときは「子ども」として接する。特に不登校しているお子さんに関してはできるだけその甘えを許容してあげることが大切です。ただし、条件を付けてはいけません。「新しいゲームを買ったら学校に行くのよね」というのでは子どもは「甘えさせてもらった」とは感じません。「甘えられた」という実感を得るには条件があってはいけないのです。

一方で、大人として接するというのは、これからのことを話したり、勉強のことを話したりするときです。特に高校生で不登校になると、出席している時数や、定期考査の成績などが、留年等にもかかわってくるので、話す機会は増えると思います。中学生でも進路は考えないといけません。そういう時は、「あなたは子どもで考えが足りない」ということで接しているとお子さん自身は「自分が認められていない」と感じてしまいます。こういう場合は一人の大人として子どもさん本人の意見を尊重すると同時に、本人に意見をするときも、親としてではなく一人の大人として意見を述べることが求められます。言葉を変える必要はありません。親御さん自身の内面、心構えが変われば適切な言葉と態度が出てきます。

不登校のお子さんのことは心配ですが・・・

確かに不登校のお子さんのことは心配で、これからどうなるんだろうという不安が親の中には常にあります。そういう心配を全く感じていないような傍若無人な振る舞いに、時折腹が立つこともあります。怒りをぶつけたご経験がある方も少なからずいらっしゃいます。現状を見ていれば心配はたくさんありますが、その心配を信頼に変えることができたらどうでしょうか。「うちの子はきっとこの状況を乗り越えることができる」と思っているほうが「この子大丈夫かな」と心配して見ているより、日々のコミュニケーションや態度で伝わるものが全然違ってきます。お子さんへの「信頼」があれば、相手に対する経緯が生まれ、お子さん自身の考えを尊重できるようになります。「信頼してほしい」とおもいつつも、学校にかない現状、勉強していない現状があってなかなか言い出せません。しかし、どんな状況になっても、無条件で子どもを信頼できるのは親だけです。

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不登校の解決に向けたメルマガを読む 不登校やキャリア教育に関するコラム 空気が読めない子 ― ASD(自閉スペクトラム)の理解 感じ方がちがう子 ― ASD(自閉スペクトラム症)の世界を知る (シリーズ:子どもの「しんどさ」を生物心理社会モデルで理解する 第6回) 感覚過敏/コミュニケーションのズレ

「空気が読めない」と言われる子がいます。集団の中で浮いてしまったり、場の雰囲気が変わっても気づかない。でもその背景には、「感じ方がちがう」世界の存在があります。

ASD(自閉スペクトラム症)は、理解力や努力の問題ではなく、情報の受け取り方・感じ方・構造のとらえ方が異なる発達特性。今回は、感覚のちがいと認知のスタイル、そして支援の考え方を、生物心理社会モデルを軸に整理していきます。

🔗 参考:シリーズ第1回「子どもの“しんどさ”をどう理解するか」https://visionary-career-academy.com/archives/4178

ASDとは何か ― 世界の感じ方が違う子どもたち

ASDは Autism Spectrum Disorder の略で、日本語では自閉スペクトラム症と呼ばれます。「スペクトラム(spectrum)」とは、光のように連続した幅のある性質という意味。その名の通り、ASDには重い・軽いといった線引きではなく、**社会性・コミュニケーション・感覚処理などの特性が人によって異なる“グラデーション”**があります。

ASDの子どもたちは、他者の気持ちや意図、文脈を読み取る脳の働き方が独特です。それは「理解力の欠如」ではなく、「認知スタイルのちがい」。世界を構造的・規則的にとらえる一方で、人の心やあいまいな社会ルールを把握することが難しいのです。

感覚過敏の世界 ― 五感のチューニングが異なる

ASDの子どもたちは、私たちが当たり前に受け取っている感覚情報を、まったく違う強さで感じています。

聴覚過敏:教室のざわめき、蛍光灯の「ジーッ」という音、鉛筆のカリカリ音などが、痛いほど響く。

視覚過敏:蛍光灯の光や人の動きが刺激になり、目をそらす。

触覚過敏:洋服のタグや靴下のゴム、人との接触が苦痛に感じられる。

嗅覚・味覚のこだわり:におい・食感・温度への過敏さから偏食が起こることも。

こうした過敏さは「わがまま」ではなく、脳が感覚刺激をうまくフィルタリングできないために起こります。外界の情報が“全開のボリューム”で流れ込んでくるため、本人にとって世界はしばしば「うるさい」「まぶしい」「痛い」場所なのです。

💡 支援のヒント「静かな場所で話す」「光をやわらげる」「触れずに声で伝える」――環境を一段階“静かにする”だけでも、本人の安心感は大きく変わります。

認知特性とWISC-Ⅴで見えるASDの特徴

発達検査(WISC-Ⅴ:Wechsler Intelligence Scale for Children – Fifth Edition)では、ASDの子どもたちの“感じ方のちがい”が、認知プロファイルとして明確に表れます。

指標 内容 ASDで見られやすい傾向 言語理解(VCI) 言葉の意味理解・常識・表現力 語彙は豊富でも、比喩・冗談・曖昧な表現の理解が苦手 視覚的推論(VSI) 図形・パターンの処理 強み。構造や規則を見抜く力が高い ワーキングメモリ(WMI) 聴覚的短期記憶・思考保持 聴覚過敏などで集中が途切れやすい 処理速度(PSI) 単純作業のスピード 感覚刺激への敏感さ・慎重さから低く出やすい 流動的推論(FRI) 新しい課題への柔軟対応 パターンの理解は得意だが、曖昧な課題は苦手

ASDの子は、構造化された課題に強く、曖昧な状況に弱いという特徴があります。この特性が、学校生活や人間関係で「空気が読めない」「急な変化に弱い」と見られる背景にあります。

🔍 ADHDとの比較ADHDでは「注意の持続」や「衝動の制御」の難しさが中心で、WISCではワーキングメモリや処理速度が低めに出やすい。ASDでは「意味づけ・構造化」の弱さが中心という違いがあります。

生物・心理・社会モデルでみるASD 生物的側面

脳の情報処理ネットワーク(前頭葉―側頭葉―小脳連関など)に特性があり、光・音・触覚への感覚過敏・鈍麻も見られます。こうした感覚処理の違いが、日常の不安や混乱のもとになることがあります。

心理的側面

ASDの発達は、「認知発達(考える力)」と「関係発達(他者とつながる力)」が非対称に進みます。物事のルールや法則を理解する力は高いのに、人との関係づくり(社会的参照・共同注意・模倣)には時間がかかるのです。

社会的側面

ASDの子は、社会の“暗黙の了解”や“空気”といった非言語的な文脈を読み取るのが苦手です。社会の側が「わかりやすい構造」を示してあげることが、適応の第一歩になります。

幼児期に現れる兆し ― 社会的参照の困難

ASDの特徴は、幼児期から現れます。赤ちゃんは通常、親の表情や声を“参照”して行動を決めます(社会的参照)。しかしASDの子は、その参照がうまく働きません。

親の表情を見ない

名前を呼んでも反応が鈍い

一人遊びが多い

こうした様子が、3歳児健診などで指摘されることもあります。「関係発達の遅れ」が、後のコミュニケーションの土台に影響していきます。

構造を愛する ― ルーティンとこだわりの世界

ASDの子どもたちは、世界を“変化”ではなく“規則”で理解します。朝の支度の順番、登校ルート、食事の配置――その子なりの“ルーティン”があり、崩れると大きなストレスになります。

💡 ルーティンは安心の構造ASDの子にとって、こだわりや決まりごとは安心の拠り所。「なくす」ではなく、「理解し、活かす」視点が大切です。

また、規則性への敏感さがあるため、鉄道・時刻表・カレンダー・数字・天気など、明確なパターンを持つものを好む傾向があります。これは「構造を通して世界を理解したい」という自然な表れです。

男性に多い理由とカモフラージュASD

ASDは、男性が女性の約4倍といわれます。生物学的には胎児期のテストステロン量が社会的認知の発達に影響しているという説があり、社会的には女子が模倣・観察によって特性を隠しやすいことも関係しています。

「カモフラージュASD」と呼ばれるタイプは、周囲に合わせようとしすぎて思春期以降にうつや不安症を併発することもあります。

ADHDとの違い ― 「調整」と「構造」 観点 ADHD ASD 主な困難 注意・感情の調整 状況の構造理解 困りごとの原因 「わかっていても抑えられない」 「何が起きているのかわからない」 支援の方向性 刺激を減らす 環境を明確にし見通しを与える

ADHDでは環境の刺激を調整し、ASDでは環境の構造を明示することが支援の鍵になります。

支援のキーワード ― 「見通し」と「安心」

ASD支援の本質は、「次に何が起こるか」がわかること。予測可能な環境が、最大の安心を生みます。

スケジュールを見える化する

状況の変化を事前に予告する

ルールや手順を言語化・明文化する

🧩 柔軟性は“学ぶ”もの安心できる構造の中で、少しずつ変化に慣れていく――それがASD支援の第一歩です。

家庭でできるASD支援のポイント

説明は具体的に、順序立てて 「ちゃんとして」ではなく、「まず〇〇して、次に〇〇してね」と段階を示す。

感情ではなく構造で伝える 「どうしてそんなことするの!」ではなく、「それをすると〇〇になるよ」と結果で伝える。

変化を予告する 「明日は時間割が変わるよ」「お客さんが来るよ」と事前に知らせて安心をつくる。

まとめ ― 「空気を翻訳する社会」へ

ASDの子どもたちは、「空気を読まない」のではなく、**“空気があいまいすぎて読み取れない”**だけ。

社会の側が「空気をわかりやすく伝える」工夫をすれば、彼らは自分の力を安心して発揮できます。

🌱 ASD支援とは、「空気を読む力」を求めるのではなく、「空気を翻訳する力」を社会全体で育てること。

参考資料・引用

American Psychiatric Association (2022).……

思春期世代との親子のコミュニケーションが難しくなるのはなぜ? Read More »