お子さんへの対応を上手くできない自分を責めないでください!
正解を求めて、子どもへの対応を学ぶと辛い?
お子さんが、不登校や学校に生き渋るようになって、「どう対応したらよいか?」を悩んで、ネットを調べたり、学校のカウンセラーに相談したりすることがあります。そうすると、
・話を聴いてお子さんの思いを受け止める・良いところを見つけてお子さんをほめる・学校のことはわきに置いて雑談する(無理に学校にいかせようとしない)
と言ったことを助言されます。最初のうちは「そうか、やってみよう」ということになりますが、生き渋る期間が長くなったり、学校に行かない日々がつづくと「本当にこれで良くなるの?」と思ってしまいます。そのうちだんだん、嫌気がさしてくることもあります。
間違ったことを言っているわけではないが・・・
お子さんの話を聴くこと、お子さんをほめること、雑談をすることなどは、私もよく言います。ただ、それができないことや、やってみたけどうまくいかないこともあります。
すでに「そんなことは知っているんですけど」という顔をされることもあります。不登校になったお子さんへの対応としては間違ってはいません。
お子さんに対して「〇〇してあげてください」と助言するのは難しくありませんが、実際にその当事者であるお子さんを前にして、親御さんができるか?と言われるとなかなか難しいです。しかも、一生懸命にお子さんに関わろうとする人ほど「助言をもらったのにできなかった」とご自身を責める傾向にあります。
しかし、大事なのはその助言に従ってお子さんに関わる、お母さま、お父さまの気持ちに目が向いているのか?というところです。
お子さんにできないときは、自分がしてもらうとき
たとえば、話を聴くということについて、お子さんの話を最後まで聴くことができない、というのは、自分の方が聴いてもらいたいことがある場合があります。相手の言い分が身勝手で、まったくもって配慮に欠けたものだとすると、イライラして「いい加減にしなさい」と言い返してしまいたくもなります。(ここで言い返すとせっかく話してくれている、という現実があるのに、関係性に緊張感が生まれて台無しです)
仮に言葉にしなくても、子どもの方は「なんかお母さん、イライラしているな」と感じて話そうと思っていたことも話せなくなることもあります。
人の話が聴けないときは、自分が聴いてもらいたいときなのです。
コップにいっぱい水が入っているとそれ以上、入れることはできません。これと同じで自分の中に話したいことがあるときは、それ以上入りません。むしろ、あふれてこぼれてしまいます。そうならないために、自分の頭の中にある思いを外に出す場をもつことはとても大事なことなのです。
「できないから駄目」ではなくて、「できない状態にある」だけである。
話を聴くにしろ、ほめるにしろ、お子さんに関わっていて「もう無理だな」とおもったら、無理をせずに、話をしたり、ほめてもらう場面を作ることが大事です。
カウンセリングでは話を伺い、その方がお気づきでない、できている点を承認することはあります。また、不登校の親の会などのあつまりで同じような境遇にある人、かつてそうだった人に話を聴いてもらい、共感を得ることで力を得ることもできます。
助言を受けたことを上手く対処できないときは、自分をダメだとたたくのではなく「今はそれができない状態である」という認識のもとに、できるようになるために、自分を整えることが大事です。
助言を受けにいき素直にそれを実践しようとされただけでも素晴らしいわけです。そしてそれがうまくいかないな~と感じたら、今は自分がかかわってもらう状態なんだ、と気づいていただければ、自分を責めることを減らせます。
どうか、「できないからダメ」と決めつけてご自身を責めることがないように。
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不登校やキャリア教育に関するコラム
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
(生物心理社会モデルでみる不登校の背景③/シリーズ記事)
朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。
本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178
「やめたいのに、やめられない」
スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。
けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。
特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。
依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。
生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく
生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム
ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。
思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。
さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。
つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。
親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。
特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。
心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間
多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。
現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。
「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。
社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー
学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。
同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。
親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。
大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。
生物心理社会モデルでみる全体像
親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます
要因
特徴
支援の方向
生物
ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計
睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る
心理
不安・孤独・承認欲求/安心の希求
現実で安心できる活動や関係を増やす
社会
家庭内の緊張/オンライン文化の圧力
対話的な関係づくり/使い方を共に設計する
家庭でできる工夫
・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく
依存症の治療について
もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。
日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。
治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。
親の育て方の問題ではありません
依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。
安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。
今日のまなざし
ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。
参考・参照
・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」
関連リンク・生物心理社会モデル(総論)に戻る:https://visionary-career-academy.com/archives/4178・第2回:朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン:https://visionary-career-academy.com/archives/4194
文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。
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