不登校になりはじめの中学生の苦しみの根っこにあることとは?
不登校する中学生は根が真面目なお子さんが多い
これまで、10年以上不登校になってしまった中学生、高校生にカウンセラーとして関わってきました。その多くは真面目なお子さんが多いです。それゆえにうまくいかないこと、できないことが許せないでストレスをため込んでしまいます。しかも、他人のせいにするのではなく、自分のせいでうまくいかないから、自分を責めることも多く、かなり心は傷ついています。
特に中学生になったばかりの頃は、小学校とのギャップに苦しむことが多いようです。勉強も難しくなり、クラブ活動や塾などやらないといけないことが一気に増えます。また、別の学校からやってくる子どもたちとの関係づくりにも悩んでしまいます。公立中学校の場合、近隣の小学校2~3校が一つの中学にまとめられます。もし、もともと通ってた小学校が小規模で先生の目が行き届くような学校であれば、中学になった途端、突然大人数の中に与まれてしまい、面倒を見てくれる先生もおらず頼る相手がいないことから不安になったりもします。また、他の小学校からきたちょっとやんちゃな生徒たちとの距離の取り方がつかめなかったり、まじめさゆえに、「ちゃんとやろうよ」なんて声をかけて、「なに真面目にやってるの?」なんて言い返されて、そこでも傷つきます。もともと同じ小学校だった仲間も、そういうやんちゃな生徒に流されてしまって、付き合いづらくなります。
真面目な中学生が抱える二つの苦しみ
真面目でいい人の苦しさは二つあります。一つが完璧主義です。
完璧主義はできない自分を責めます。周りから見てもう十分頑張っているのに、本人が納得する基準が高いので苦しい思いをします。小学生の時には、自分の納得できるレベルまで持っていくことはできても、中学の勉強や課題はそうとはいきません。要領のいいお子さんであれば適当にごまかしたり、ある程度のところでケリをつけますが、完璧主義のお子さんはやりきるまで、やめません。そのがんばりが続いているうちは良いのですが、いずれエネルギーが切れてしまいます。完璧主義の人の最大の弱点は「完璧にできないことはやらない」と言うことです。これは認知行動療法の認知の歪みの一つである「全か無か思考」とも呼ばれるもので、やるなら100、100できないならゼロという思考パターンです。また、完璧主義の人に置きがちなのは、他人にも完璧を求めてしまうところもあります。完璧にできていない人を非難して人間関係がこじれることもあります。
もう一つの苦しみが「いい人でなければならない」ということです。真面目な人は、他人に対していい人であろうとします。他人にたいしていい人をやり続けるのは、大人子ども関係なく至難の業です。自分にとって苦手な相手に対してもいい人であろうとすると、気を遣って、相手の機嫌を損ねないようにして、「好かれよう」とします。小学校と中学校とが決定的に違ってくるのは人間関係において、うまくいかないことが増えるということです。異性を意識しだすこともそうですし、お互いに自立の道を歩み始めるので、「みんな一緒に」という枠組みに入りたがらない人も出てきます。小学生の時に培った「いい人」戦略は「みんな一緒に」が前提になっているので、無理が生じます。また、他人にたいしていい人としてふるまうことは、自分の気持ちや意思を抑圧して犠牲にするので、エネルギーを使い果たして破綻します。そして「いい人」としてふるまえない自分を責めると同時に、「いい人」ではない自分を見せられないから、外に出ることをやめて学校に行きづらくなります。
真面目な中学生が不登校になったらどう言葉をかけると良いのか?
真面目な中学生が不登校になると、自分を責めて余計に気持ちが沈みがちになります。学校に行かないといけないのに行けない自分、みんなができていることをできない自分、また親の期待を裏切った(という思い込み)から親に対してもどう接して良いか分からないままの生活をします。初めは心配かけまいと、気丈にふるまいますが、それも長く続かない可能性もあります。もともと元気がなくて学校に行けていないのです。しかし、「ゆっくり休みたい」ということも言えないでいます。
お子さんがこういう状態になったら親は何と声をかけるべきか相当に迷うところです。頑張れとは言いづらいです。すでに頑張っているし、無理していることが透けて見えます。かといって「頑張りたい」と思っている相手に「休んでいい」というのも何か違う気がします。下手すると「休む」ことを後押しする言葉がけは、落ち込んでいる状態の時にかけると「学校にいくな」とも受け取りかねません。
私がおすすめするのは、黙って一緒にいるということです。否定も肯定もしない、そして大人の常識や親の価値観をいったん脇において、お子さんがどういう気持ちだろうか、どういう苦しみを持っているだろうか?と言うところに焦点をあてて、言葉を発せずに寄り添うことです。お子さんが話しかけてきたら、話の腰を折らずに聴く、と言うことです。とはいえ、親からは何も話さないというわけではありません。「食べたいものはある?」とか「掃除するから手伝ってほしい」とか、ごくごく普通のことは話してもらってよいです。あいさつももちろん大切です。というのは、学校に行かなくても親から普通に扱ってもらえるというのが子どもにとって一番エネルギーになることだからです。
真面目な中学生が不登校から脱するために必要なこと
不登校しているお子さんが不登校の状態から脱するために必要なことは、完璧主義といい人をやめさせることです。正確に言うと、その考え方を緩める必要があります。特に完璧主義が残っていると、仮に学校に行くようになっても、完璧にできない自分に幻滅して余計にダメージを追う可能性があります。
完璧主義といい人をやめるためには、自分の本音を言葉にする力が必要です。この場合の本音はネガティブな言葉であることが多いです。「あいつが嫌いだ」とか「あのことにたいして腹が立っている」とかです。ただ、こういうことを言ってはいけないという思い込みが強いので、その緊張を緩めるところから始めなければなりません。だからこそカウンセリングをはじめとした言葉を用いるケアが必要になります。親にたいして言えればよいのですが、中学生や高校生のお子さんが親に本音を言うということは珍しいです。第三者の介入が必要な理由は、親ではない、信頼できる大人がいることで、自分の本音を少しずつ語り、お子さん自身の緊張感を緩めることができるようになります。完璧主義といい人から脱していくことは、不登校から脱する以上に、その先の人生にとってもストレスをためにくくしたり、人間関係のトラブルを回避したりすることに大いに役立ちます。
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不登校やキャリア教育に関するコラム
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
(生物心理社会モデルでみる不登校の背景③/シリーズ記事)
朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。
本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178
「やめたいのに、やめられない」
スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。
けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。
特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。
依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。
生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく
生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム
ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。
思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。
さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。
つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。
親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。
特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。
心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間
多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。
現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。
「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。
社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー
学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。
同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。
親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。
大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。
生物心理社会モデルでみる全体像
親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます
要因
特徴
支援の方向
生物
ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計
睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る
心理
不安・孤独・承認欲求/安心の希求
現実で安心できる活動や関係を増やす
社会
家庭内の緊張/オンライン文化の圧力
対話的な関係づくり/使い方を共に設計する
家庭でできる工夫
・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく
依存症の治療について
もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。
日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。
治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。
親の育て方の問題ではありません
依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。
安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。
今日のまなざし
ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。
参考・参照
・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」
関連リンク・生物心理社会モデル(総論)に戻る:https://visionary-career-academy.com/archives/4178・第2回:朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン:https://visionary-career-academy.com/archives/4194
文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。
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