子どもが不登校になったら、親は何をしてあげればよいか?
「どうしてあげればよいですか?」
不登校になった、またはなりそうだという方からのお問合せをいただくことがしばしばあります。
皆さん、悩まれているのは、親として何ができるか?ということです。子どもが困っているので、何かしてあげたい。でも何をしてよいのか?ということが明確ではありません。「病気」とちがって、医者や薬といった、頼り先もあいまいです。
そこで、不登校になったら最初に何をすべきなのか?ということを考えてみました。
不登校のお子さんが最初にしてほしいこと
子どもが真っ先に求めているものは、休息です。とにかく休むことです。不登校を発熱だと考えてみてください。発熱したお子さんに必要なのは休息です。同じです。心の不調であろうと、身体の不調であろうと、必要なのは休息です。
では、どれくらいの休息が必要なのか?と言われると、これも発熱と同じで症状によります。微熱であれば1~2日で回復しますが、高熱であれば数日、病状によっては入院も必要になります。不登校で入院というのはあまりありませんが、調子が整うまで休息が必要になります。
休息の条件
休息が必要といっても気を付けないといけません。休息するにしても、登校するプレッシャーをゼロにするということが必要になります。具体的に見ていきます。
・登校を促さない。学校に行くかどうかを尋ねることが子どもにとってはプレッシャーになります。これ以上、問われたくないから「明日は行くよ」と言ったりしますが、それはその場しのぎの答えで、まず行くことはありません。「学校に行こうかな」と言い出したら、多くの場合は背伸びです。「もうちょっと休んだら」というくらい言ってあげてもよいです。ちなみに登校しだす場合は、多くは何事もなかったかのように普通に準備していくことが多いようです。
・学校との連絡を極力減らすこと。熱心な先生ほど、毎日電話をかけてきて「調子はどうだ」と尋ねてきます。先生には、「学校にきなさい」という意図はなくても、学校から連絡があれば子どもは、そういう風に意図をくみ取ってしまい、プレッシャーになります。しばらく連絡しない、連絡があれば親が間に入って対応します。
・自分で自分を責めたり、焦りの気持ちを極力和らげる。「学校に行かねば」「勉強が遅れてしまう」という焦りを、親や学校からのプレッシャーがなくても自分で自分にプレッシャーをかけている場合があります。そのプレッシャーからの逃避で、一時的にネットやゲーム依存になることもあります。自分でかけているプレッシャーを緩めるには、勉強は後から取り戻せるということ、不登校をした多くの人が、大人になり、社会に出ていけているという事実をお伝えすることで軽減できます。
休息の先にあるもの
どれくらいの期間の休息が必要なのかは誰にもわかりません。本人も分かっていないです。しかし、この休息期間を経ると、家で日常を取り戻します。ときどき「学校に行かないこと以外は普通なんです。」とお話しくださるお母さまがいらっしゃいますが、ここまでくれば、次に進むことができます。日常を取り戻すところが、不登校から脱していく一つの目安になります。
その時、子どもは「しんどい」ということばよりも「ひま」「やることない」「退屈」と言ったりします。そこで「それなら学校行きなさい」と言わずに、「あーそうなの」と子どもが言ったことを足しも引きもしないでそのまま受け止めてあげることが肝要です。
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不登校やキャリア教育に関するコラム
子どもの不調をどう理解するか ― 生物心理社会モデルという考え方
子どもの不調をどう理解するか ― 生物心理社会モデルという考え方
(シリーズ「子どもの“しんどさ”を理解する」総論)
子どもが学校に行けない、朝起きられない、食欲がない、ゲームに没頭してしまう――。こうした「しんどさ」は、決して珍しいことではありません。しかし、その理由をひとことで説明するのは簡単ではありません。
「心の問題?」「体の病気?」「家庭の影響?」――多くの親御さんはそのあいだで揺れ、「もしかして私の育て方が悪かったのでは」と自分を責めてしまいます。
けれども、子どもの不調は単一の原因ではなく、いくつもの要因が重なって起こる現象です。その複雑さを理解するための枠組みが、今回取り上げる**生物心理社会モデル(Biopsychosocial model)**です。
このシリーズでは、近年の臨床心理・教育現場で注目されるこのモデルをもとに、不登校の背景にある代表的な症状や特徴を、医学・心理・社会の3つの視点から丁寧に整理していきます。読者のみなさんにとっては、**お子さんを理解するための“確かな地図”**になるはずです。
Ⅰ.生物心理社会モデルとは
1977年、アメリカの精神科医**ジョージ・エンゲル(George L. Engel)**が、従来の「生物医学モデル」への批判として提唱したのがこの考え方です。
それまでの医療は、「病気=体の異常」という一元的な見方が主流でした。しかし、心身の不調には、身体的な変化だけでなく、心理的要因や社会的背景が密接に関係しています。
この考え方は、世界保健機関(WHO)の健康観にも反映され、現在のICD-11(国際疾病分類)やDSM-5でも、「心身相関的な理解」が重視されています。
🔹 Biological(生物):体質・脳・神経・ホルモンなどの身体的要因🔹 Psychological(心理):感情・性格・考え方・ストレス対処などの心理的要因🔹 Social(社会):家庭・学校・文化・経済・人間関係などの社会的要因
この3つの視点を重ねることで、「なぜ不調が起こるのか」「どう支えればよいのか」が、より現実的に、立体的に見えてきます。
ここに見出しテキストを追加
Ⅱ.このモデルで見る「不登校の背景」
たとえば、朝起きられない子どもを「怠けている」と見てしまえば、家庭での対話は苦しくなります。けれども、生物的には自律神経の乱れ、心理的には不安やプレッシャー、社会的には学校時間とのミスマッチ――と見立てると、原因ではなく支援の方向が見えてきます。
💬「どこが悪いか」ではなく、「どこを支えられるか」で考える――それが、生物心理社会モデルの根本にある視点です。
Ⅲ.このシリーズの構成
この連載「子どもの“しんどさ”を理解する」は、以下の7回でお届けします。
回
テーマ
キーワード
第1回
子どもの不調をどう理解するか ― 生物心理社会モデルという考え方
モデルの全体像/不登校の理解の枠組み
第2回
朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン
自律神経/午前中の倦怠/医療と学校連携
第3回
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
脳の報酬系/安心の居場所/自己調整
第4回
食べない・食べすぎる子 ― 摂食障害という心身の叫び
コントロール感/思春期のアイデンティティ
第5回
落ち着かない子 ― ADHDという注意の特性
注意・多動・衝動/環境調整
第6回
感じ方がちがう子 ― ASD(自閉スペクトラム症)の世界を知る
感覚過敏/コミュニケーションのズレ
第7回
勉強がつらい子 ― 学習障害という情報処理のちがい
認知特性/努力の誤解/合理的配慮
各回では、DSM-5・ICD-11の診断基準や国内ガイドラインにも言及しながら、症状を「生物・心理・社会」それぞれの観点で整理します。また、家庭でできるサポートや、学校に求めたい配慮も具体的に紹介していきます。
Ⅳ.親の育て方の問題ではありません
ここで強調しておきたいのは、これらの症状や不登校は親の育て方の問題ではないということです。
不調の多くは、思春期特有の身体的変化や、神経系の未成熟、環境ストレスなどが重なって起こります。そして、多くの場合、思春期を過ぎて神経・ホルモン・心理的バランスが整うと、自然に改善していくことが知られています。
このシリーズは、「責任を問う」ためではなく、理解を深め、希望を持てるようにするための知識を届けることを目的としています。
Ⅴ.シリーズの読み方と今後の展開
毎回のメルマガでは、それぞれの症状を「生物心理社会モデル」で読み解きます。
各回の文末には、この第1回(本記事)へのリンクを貼ります。 → HP上では、このページを「モデル解説ページ」として常設。 → いつでも参照できる「共通の地図」として活用します。
🪞 あなたのお子さんの“しんどさ”は、心でも体でもなく、“その両方”です。だからこそ、どちらも大切にしながら、つながりの中で支えていけます。
🔍参考文献
Engel, G. L. (1977). The Need for a New Medical Model: A Challenge for Biomedicine. Science, 196(4286), 129–136.
American Psychiatric Association (2022).…