不登校している子どもが「やる気がない」「生きている意味がない」と発言した時に何と言ってあげればよいか?
不登校の一つの心理状態として起こりうる「無気力」
「不登校」といっても、そのお子さんの状況は様々です。部屋から一歩も出てこない、昼夜逆転している、食事は一緒にするけど会話はない。一方で家の手伝いを積極的にする、学校には行かないけど塾や習い事に行く、家の手伝いはするなど千差万別です。その中で一緒に暮らしていて辛いのがお子さんが「無気力」になっている状態です。「やる気がない」「生きている意味が分からない」というネガティブな言葉が多く、表情もさえず顔色も悪い。見るからに生気がないという状況です。このような状況を目の当たりにして、前向きになれる保護者さんはまずいらっしゃらないと思います。「大丈夫かな」と心配になるのが当然です。
無気力なお子さんに言葉をかけるよりも大切なこと
「無気力なお子さんにたいしてどんな声がけをしたらよいでしょうか?」といったたぐいのご質問はよくいただきます。このような状況にたいして有効な手立ては実は言葉をかけることではありません。特に言葉を発しないで一緒に過ごす。お伝えするのはこれです。家の中のどこでもよいので、一緒にいて無言で過ごす。その際に、お子さんは何をしていても良いですが、親はテレビを見たり、スマホを見たりは特にしないで、ただ黙って過ごす。(お茶を飲むくらいは良いと思います)話しかけたり、見つめたりしないで、一緒にいる。お子さんが「何?」と問いかけてきたら、視線を合わせて「ただ一緒にいるだけよ」と応えてそのまま特に会話をしない。もし「僕さ~、」と何か話し始めたら、とくにほめたり、改善策を伝えたり、問いかけたりせずに「そうなんだ」ひたすら聴く。逆に何も話をしなければ、一瞬うなづいてゆっくりその場を離れます。普通に立ち去って良いのですが、ため息だけは禁物です。お子さんにたいしてネガティブなメッセージになります。
一緒にいることが何をもたらすのか?
言葉を交わさないで一緒にいるということに意味があるのか?と思われるかもしれません。不登校しているお子さんは学校に行っていない自分にたいしてネガティブな思いを持っています。その思いが強くなりすぎて、無気力になっています。「何もしない自分は価値がない」と思っているところに、「何もしないで傍にいてくれる親」がいると子どもはどう感じるでしょうか?初めは「なんか言われるかも」とプレッシャーに感じるかもしれませんが、何も言わないけど、不機嫌そうではないということが伝われば、お子さんは安心します。一緒にいるということは「行為」ではなく「存在」そのものへの肯定につながります。何ができているからいい、何ができないからだめ、というところを越えて、「あなた自身が素晴らしい存在」というメッセージにつながります。一緒にいるときに心の中でお子さんに受け取ってほしいメッセージを抱いておくと、ジワリと伝わります。
存在を認められると強い
不登校しているお子さんに限らず、大人も含めて自分自身の存在を認めてほしい気持ちはあります。行為にたいする承認や評価よりも、存在そのものを認められることが何よりも心の励みとなります。言葉によってなせることもありますが、無気力になって、何と言葉をかけてよいか分からないときは、言葉ではなく、一緒にいるという自分自身の存在でもってお子さんを承認する。そしてその時に心の中で「あなたは素晴らしい存在」というメッセージを念じながら座ってみます。1回目はうまくいかないかもしれません。しかし、2回、3回と重ねていくと徐々に響いてきます。お子さんが口を開いたらそこから会話の糸口もつくれます。言葉を越えたコミュニケーションの味わいは、関係性の深みも増してくれます。
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不登校やキャリア教育に関するコラム
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
(生物心理社会モデルでみる不登校の背景③/シリーズ記事)
朝になると「気持ちが悪い」「頭が痛い」「体が動かない」と訴えるお子さんがいます。それは意志ややる気の問題ではなく、自律神経のはたらきの不安定さから起きているかもしれません。
本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178
「やめたいのに、やめられない」
スマートフォンやゲーム機の前に長時間座り込み、声をかけても返事がない。「もう少し」「あと一回」――その繰り返しに、親として焦りや怒り、無力感を抱く方も少なくありません。
けれども、これは単なる“怠け”や“甘え”ではありません。背景には、脳の仕組み・心の不安・社会の構造が複雑に絡み合っています。
特にゲーム依存については心配な方も多いと思います。
依存的になるというのは、ゲームがないと不安、ゲームのことばかりが気になるということになります。そこには、単に時間的な区切りや、意志の力でコントロールだけでは太刀打ちできない身体の働きがあります。今回も生物心理社会モデルに照らして分析してみます。
生物・心理・社会 ― 三つの視点で整えていく
生物(Biological)― 報酬系のはたらきとアルゴリズム
ゲームやSNSが楽しいと感じるのは、脳の**報酬系(ドーパミン系)**が関係しています。ドーパミンは快感や達成感を生む神経伝達物質で、「勝った」「レベルアップした」「通知が来た」といった刺激で分泌されます。
思春期はこの報酬系が非常に敏感で、「もっとやりたい」「もう一度勝ちたい」という欲求が強く働きます。これは理性の弱さではなく、発達途上の脳の自然な反応です。
さらに現代のゲームやSNSは、ビッグデータとAI(人工知能)によって、利用者が最も興味を引かれる情報を自動的に出す仕組みになっています。世界中のユーザーの行動データを分析し、「次に見たい」「やめられない」状態を生み出すよう設計されているのです。
つまり、相手はプロのプログラマーとマーケティングの専門家集団。このような高度なシステムに対し、発達段階にある子どもが意志の力だけで振り切ることは極めて難しいのです。
親が「意志が弱い」「努力が足りない」と考えるのは自然なことですが、人間の意志では抗いにくい構造が背景にある――この理解が第一歩になります。
特に不登校していて、学校でのつながりや承認を得られない場合、ネット上の人間関係に依存することもでてきます。一時的にはそういうつながりが助けにもなります。一方で不安な面もあり、相手の正体が分からない、いい人を装って近寄ってきてだましてくる、などトラブルに巻き込まれる恐れもあります。
心理(Psychological)― 安心の居場所としてのデジタル空間
多くの子どもにとって、ゲームやネットは「現実から逃げる場所」ではなく、**安心できる“もう一つの居場所”**です。
現実での孤立感や失敗体験が重なると、ネットの中では「認められる」「上手くできる」「誰かとつながれる」という感覚を得られます。この「できる自分」を感じられる時間は、時に現実よりも心の安定につながります。
「やめること=自分の世界を失うこと」と感じる子も少なくありません。それほどまでに、デジタル空間が心の安全基地になっているのです。
社会(Social)― 家庭・学校・社会のプレッシャー
学校や家庭での緊張やストレスが強いほど、子どもはオンラインの世界に安心を求めやすくなります。
同時に、SNSやゲームの構造そのものが「つながっていないと不安になる」ようにできています。通知・ランキング・おすすめ機能――これらもすべて、ビッグデータ分析とマーケティングの技術によって最適化され、人を「続けたくなる」「戻りたくなる」方向に誘導しています。
親が「もうやめなさい!」と叱っても、子どもは「理解されない」と感じ、関係がこじれることがあります。
大切なのは、**“やめさせる”より“関係をつなぎ直す”**こと。「何が面白いの?」「どんなところが好き?」と、子どもの世界を理解する対話から始めましょう。
生物心理社会モデルでみる全体像
親の育て方の問題ではありません/思春期を越えると整っていきます
要因
特徴
支援の方向
生物
ドーパミン報酬系の敏感さ/AIによる刺激設計
睡眠・生活リズムの整備/過剰刺激から距離を取る
心理
不安・孤独・承認欲求/安心の希求
現実で安心できる活動や関係を増やす
社会
家庭内の緊張/オンライン文化の圧力
対話的な関係づくり/使い方を共に設計する
家庭でできる工夫
・「何時間しているか」よりも、「どんな目的で使っているか」を話題にする・「禁止」ではなく、「一緒にルールを作る」・使用時間を「見える化」し、本人が調整を実感できるようにする・ゲーム以外にも「達成感」や「安心」を感じられる活動を見つける・現実の中に“安心できる小さな居場所”を増やしていく
依存症の治療について
もし、ゲームやネットの利用が長期にわたり、睡眠・学業・家庭生活に支障をきたしている場合は、**「ネット依存症(Internet Addiction)」や「ゲーム障害(Gaming Disorder)」**として、医療的支援の対象になります。
日本では、国立病院機構久里浜医療センターをはじめ、全国の精神科・心療内科で「ネット依存外来」「思春期依存症外来」が設けられています。
治療は「我慢させる」ことではなく、生活リズム・心理的背景・家庭関係を整える包括的支援が中心です。薬物療法よりも、心理教育・認知行動療法・家族支援が効果的であることが多く、家族も一緒に取り組むことで改善が進みやすくなります。
親の育て方の問題ではありません
依存的な行動は、自己コントロール機能がまだ発達途中の脳の働きと関係しています。親の接し方だけで説明できるものではありません。
安心できる環境と理解の中で、多くの子どもは成長とともに自然に自分の行動を整える力を身につけていきます。
今日のまなざし
ゲームに夢中になるのは、「現実で息がしづらい」サインかもしれません。取り上げるより、理解して寄り添うこと。そこから、回復の道が開きます。
参考・参照
・世界保健機関(WHO, 2023)『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics』・American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.・国立病院機構久里浜医療センター「ネット依存外来」・厚生労働省 e-ヘルスネット「インターネット依存」
関連リンク・生物心理社会モデル(総論)に戻る:https://visionary-career-academy.com/archives/4178・第2回:朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン:https://visionary-career-academy.com/archives/4194
文・大久保智弘 公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。 不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。
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