不登校の終わりに向けて必要な2つの心構え
不登校から抜け出すための取り組み
不登校から抜け出すために親御さんは、本当にあちこちに出向て努力をされています。一時的に功を奏するものもありますが、根本的な解決にはならないということで落胆される日々をお過ごしかもしれません。しかし、不登校には必ず終わりがあります。それは、学校を卒業するから不登校ではなくなるというようなものではなく、不登校したお子さんが苦しい時期を経験することで、それぞれの人生を歩み始めることを通じて前進する力を身につけているからです。この力を得るためには2つのことが大切になります。
1 将来に向けての心配は後回しにする
不登校しているお子さんを見ていると、学校に行かずに家にいて特に生産的なことはしない子どもを見ていると、心配だけでなく、時間を無駄に過ごしていることへの怒りも湧いてきます。その怒りを抑えることにも力を注ぎながらなんとかお子さんに寄り添おうと忍耐をされている日々だとお察しいたします。特に学習面の遅れは将来の仕事にも関わってくるので、これを何とか補填したいと思いも湧いてきますが、勉強のことを促すのはとてもできない、というのも子どもさんの様子を見ていて起きてきます。言いたいことが言えないことが親御さんにとってとても苦しいことです。
目の前のお子さんを見ていて楽観的な見方ができる人は稀です。しかし、これまで関わってきたお子さんたちは不登校している時期の勉強の遅れを取り戻すことはやってのけます。もちろん得手不得手はあるものの、必要な学びは責任をもって取り組んでくれます。いまやっていないからずっとダメになるというものではどうやらなさそうです。
2 子どもへの希望を持つ
もう一つ大事なことが子どもへの信頼です。信頼は結果として希望を持っていることになります。日々の生活を見て、心配が先に立ちます。「先の見えないトンネルに入ったような暗い気持ち」というお話をされたお母さまもいらっしゃいます。確かに「今」を見ればそうなのですが、出口のないトンネルはないので必ず終わりは来ます。
ではどうやったら希望を持てるか?ということですが、単に不登校からの回復を願うことです。願うことに根拠はいりません。初詣でお参りするときに「こういう理由でこの願いが叶いますように」というお参りの仕方はしないと思います。単に自分がそうなってほしいものを願っています。そこに根拠はないと思います。希望を持つことに理由はいりません。あなたのお子さんは大丈夫です。必ずいまの状況を脱して、自立して歩んでいくことができます。
忍耐は愛
日々、特段の変容がない状況は確かにつらいです。忍耐ほど、私たちの心をすり減らすものはありません。しかし、この忍耐こそが、お子さんに対する愛でもあります。希望を持つことと忍耐をすることは実はほぼ同義です。希望を持っているから忍耐ができます。希望がなくて心配や絶望が多ければ、常に現状を変えようと動き回ることになります。自分自身にも、お子さんにもプレッシャーがかかりますし、いろんな人にいろんなことを言われて疲弊します。「うちの子は大丈夫」と思いながら日常を過ごすこと。このこと自体がお子さん自身が安心感を得て、前に進む力の原動力になります。
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不登校やキャリア教育に関するコラム
子どもの不調をどう理解するか ― 生物心理社会モデルという考え方
子どもの不調をどう理解するか ― 生物心理社会モデルという考え方
(シリーズ「子どもの“しんどさ”を理解する」総論)
子どもが学校に行けない、朝起きられない、食欲がない、ゲームに没頭してしまう――。こうした「しんどさ」は、決して珍しいことではありません。しかし、その理由をひとことで説明するのは簡単ではありません。
「心の問題?」「体の病気?」「家庭の影響?」――多くの親御さんはそのあいだで揺れ、「もしかして私の育て方が悪かったのでは」と自分を責めてしまいます。
けれども、子どもの不調は単一の原因ではなく、いくつもの要因が重なって起こる現象です。その複雑さを理解するための枠組みが、今回取り上げる**生物心理社会モデル(Biopsychosocial model)**です。
このシリーズでは、近年の臨床心理・教育現場で注目されるこのモデルをもとに、不登校の背景にある代表的な症状や特徴を、医学・心理・社会の3つの視点から丁寧に整理していきます。読者のみなさんにとっては、**お子さんを理解するための“確かな地図”**になるはずです。
Ⅰ.生物心理社会モデルとは
1977年、アメリカの精神科医**ジョージ・エンゲル(George L. Engel)**が、従来の「生物医学モデル」への批判として提唱したのがこの考え方です。
それまでの医療は、「病気=体の異常」という一元的な見方が主流でした。しかし、心身の不調には、身体的な変化だけでなく、心理的要因や社会的背景が密接に関係しています。
この考え方は、世界保健機関(WHO)の健康観にも反映され、現在のICD-11(国際疾病分類)やDSM-5でも、「心身相関的な理解」が重視されています。
🔹 Biological(生物):体質・脳・神経・ホルモンなどの身体的要因🔹 Psychological(心理):感情・性格・考え方・ストレス対処などの心理的要因🔹 Social(社会):家庭・学校・文化・経済・人間関係などの社会的要因
この3つの視点を重ねることで、「なぜ不調が起こるのか」「どう支えればよいのか」が、より現実的に、立体的に見えてきます。
ここに見出しテキストを追加
Ⅱ.このモデルで見る「不登校の背景」
たとえば、朝起きられない子どもを「怠けている」と見てしまえば、家庭での対話は苦しくなります。けれども、生物的には自律神経の乱れ、心理的には不安やプレッシャー、社会的には学校時間とのミスマッチ――と見立てると、原因ではなく支援の方向が見えてきます。
💬「どこが悪いか」ではなく、「どこを支えられるか」で考える――それが、生物心理社会モデルの根本にある視点です。
Ⅲ.このシリーズの構成
この連載「子どもの“しんどさ”を理解する」は、以下の7回でお届けします。
回
テーマ
キーワード
第1回
子どもの不調をどう理解するか ― 生物心理社会モデルという考え方
モデルの全体像/不登校の理解の枠組み
第2回
朝起きられない子 ― 起立性調節障害という体のサイン
自律神経/午前中の倦怠/医療と学校連携
第3回
やめられない子 ― ゲーム・ネット依存の背景
脳の報酬系/安心の居場所/自己調整
第4回
食べない・食べすぎる子 ― 摂食障害という心身の叫び
コントロール感/思春期のアイデンティティ
第5回
勉強がつらい子 ― 学習障害という情報処理のちがい
認知特性/努力の誤解/合理的配慮
第6回
落ち着かない子 ― ADHDという注意の特性
注意・多動・衝動/環境調整
第7回
感じ方がちがう子 ― ASD(自閉スペクトラム症)の世界を知る
感覚過敏/コミュニケーションのズレ
各回では、DSM-5・ICD-11の診断基準や国内ガイドラインにも言及しながら、症状を「生物・心理・社会」それぞれの観点で整理します。また、家庭でできるサポートや、学校に求めたい配慮も具体的に紹介していきます。
Ⅳ.親の育て方の問題ではありません
ここで強調しておきたいのは、これらの症状や不登校は親の育て方の問題ではないということです。
不調の多くは、思春期特有の身体的変化や、神経系の未成熟、環境ストレスなどが重なって起こります。そして、多くの場合、思春期を過ぎて神経・ホルモン・心理的バランスが整うと、自然に改善していくことが知られています。
このシリーズは、「責任を問う」ためではなく、理解を深め、希望を持てるようにするための知識を届けることを目的としています。
Ⅴ.シリーズの読み方と今後の展開
毎回のメルマガでは、それぞれの症状を「生物心理社会モデル」で読み解きます。
各回の文末には、この第1回(本記事)へのリンクを貼ります。 → HP上では、このページを「モデル解説ページ」として常設。 → いつでも参照できる「共通の地図」として活用します。
🪞 あなたのお子さんの“しんどさ”は、心でも体でもなく、“その両方”です。だからこそ、どちらも大切にしながら、つながりの中で支えていけます。
🔍参考文献
Engel, G. L. (1977). The Need for a New Medical Model: A Challenge for Biomedicine. Science, 196(4286), 129–136.
American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR.
World Health Organization (2023).…