読み書き・計算がつまずく子 ― LD(学習障害)の背景を理解する
(シリーズ:子どもの「しんどさ」を生物心理社会モデルで理解する 第7回)
本連載は、子どもの「しんどさ」を「生物・心理・社会」の三つの視点で読み解きます。
基本となる考え方(生物心理社会モデル)の解説は
→ https://visionary-career-academy.com/archives/4178
「何度練習しても漢字が覚えられない」
「文章を読むのに時間がかかる」
「計算の途中で数字が入れ替わってしまう」
そんな子どもがいます。
頑張っているのに成果が出ない――。
でもそれは、「努力が足りない」わけではなく、
脳の情報処理の仕組みが少しちがうのです。
LD(Learning Disabilities:学習障害)は、知的な遅れがないにもかかわらず、
「読む・書く・計算する」といった特定の学習領域に著しい困難が見られる状態です。
背景には、目や耳の問題ではなく、脳の情報処理の方法(入力→理解→出力)の特性があります。
LDは「努力不足」ではない
「やる気がない」「集中していない」と誤解されがちですが、
LDの子どもたちはむしろ努力家です。
それでも結果が出ないのは、
情報の入力(読む)・保持(覚える)・出力(書く)のどこかにズレがあるためです。
学習の中核に「読み書き・計算」があるため、
つまずきが続くと「自分はダメだ」という自己否定や不安を抱きやすくなります。
まずは、脳の働き方の違いを理解することが支援の第一歩です。
代表的なタイプ
| タイプ | 主な困難 | 特徴的な様子 |
|---|---|---|
| 読字障害(ディスレクシア) | 文字の認識・音韻処理の困難 | 文字を読むのに時間がかかる、読み間違いが多い、内容理解が追いつかない |
| 書字障害(ディスグラフィア) | 書く動作・文字構成の困難 | 書くのが極端に遅い、形が崩れる、板書が苦手 |
| 算数障害(ディスカリキュリア) | 数量・順序・計算手順の困難 | 数字の入れ替え、繰り上がり・繰り下がりの理解が難しい |
子どもによっては、これらが重なって見られることもあります。
生物・心理・社会モデルでみるLD
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生物的側面:脳の言語処理ネットワーク(左側頭葉・下前頭回など)の発達特性。
特定の情報経路(音と文字の対応、数の系列処理など)が効率的に働きにくい。 -
心理的側面:努力しても成果が出にくい経験が続き、「自分はダメだ」という学習性無力感に陥りやすい。
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社会的側面:周囲の「頑張ればできる」という期待や比較がストレスになる。
さらにLDの子どもたちは、授業中おとなしく、注意されることも少ないため、
困っていても気づかれにくいという特徴があります。
「勉強が分からないことを恥ずかしい」と感じ、
誰にも相談できないまま、教室がだんだんつらい場所になる。
このように、静かなまま不登校につながるケースも少なくありません。
早期対応と見過ごされやすいサイン
LDは、早期に気づき対応することで、二次的な困難を防ぐことができます。
小学校低学年の段階で次のようなサインが見られる場合、
早めに専門家へ相談することが大切です。
🔍 早期のサイン例
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教科書の音読に時間がかかり、読み飛ばしや行のずれが多い
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「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」など促音・拗音の読み書きをよく間違える
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「は」「を」「お」など助詞の混乱が多い
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書くスピードが極端に遅く、ノートを写すのに時間がかかる
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文字の大きさや形が安定せず、バランスが取りにくい
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繰り上がり・繰り下がり計算が苦手、数の順序をよく入れ替える
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宿題やプリントを前にすると、極端に疲れたり集中が続かない
💡 ポイント
「読めるのに内容を理解できていない」「話せるのに書けない」といったギャップがある場合、
単なる練習不足ではなく、情報処理の経路に特性がある可能性があります。
早期支援のメリット
学習の基礎が形成される小学校低学年の時期に支援が始まると、
適切な方法を身につけながら成長できるため、
自尊感情の低下や不登校の予防につながります。
認知の特徴 ― WISC-Ⅴで見えるLDのプロファイル
発達検査(WISC-Ⅴ)では、LDの子どもたちはしばしば次のようなプロファイルを示します。
| 指標 | 内容 | 傾向 |
|---|---|---|
| 言語理解(VCI) | 言葉の意味や概念理解 | 高めなことが多く、話す力や理解力はある |
| ワーキングメモリ(WMI) | 一時的な情報の保持と操作 | 低めに出やすく、読み書きや暗算で困難が生じやすい |
| 処理速度(PSI) | 単純作業のスピード・視覚的注意 | 低い場合が多く、読み書きに時間がかかる |
| 視覚的推論(VSI) | 図形やパターンの処理 | 平均〜高め。非言語的な課題に強みがある |
理解はできているのに、処理や表現の段階でつまずくというギャップ構造が特徴です。
このため、表面上は理解しているように見えても、
テストや提出物では結果が伴わず、誤解されやすいのです。
支援の方向 ― 経路を変える学び方
LDの支援は、「努力させる」ことではなく、経路を変えることです。
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読みに困る子には、音声読み上げや電子書籍の併用
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書くのが苦手な子には、キーボード入力やタブレット記録
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計算に苦手がある子には、図や具体物を使った理解
📘 支援とは、「情報の通り道を見つけること」。
方法が変われば、理解のスピードも変わります。
家庭でできる支え方
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成果よりプロセスをほめる
「できたね」より、「工夫してたね」「最後までやったね」と伝える。 -
得意を伸ばす時間をつくる
好きな分野での成功体験が、他の困難を支える力になる。 -
比べない
「〇〇ちゃんはできるのに」ではなく、「あなたのやり方でいい」と伝える。
参考資料
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American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders.
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文部科学省(2023)『発達障害のある児童生徒への教育的支援の手引き 第3版』
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田中康雄『LD・ADHD・ASDの心理臨床』金子書房, 2021.
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久保山茂樹(監修)『発達障害の臨床心理学』金子書房, 2020.
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日本LD学会 編『学習障害の理解と支援』明石書店, 2019.
今日のまなざし
子どもの努力の“方向”を見直すことが、支援の第一歩になります。
文・大久保智弘
公認心理師・スクールカウンセラー/2児の父。
不登校や思春期の親子支援を専門に活動中。
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